「そういえば、玄関にかかってる絵、五十嵐さんですよね?」
思い付いて良太は悠に聞いてみた。
玄関の鏡の向かいにかかっていた楕円形の額に収まった絵は愛らしい猫の絵だ。
「おう……」
一見して華奢な美少年は、相変わらず挑むような目で良太を見る。
「あれ、可愛いし和むよな~」
「………チビスケは可愛いに決まってる」
照れくさそうにでも言葉はちょっと乱暴に言い放つと悠はキッチンへと向かった。
「………そうなんだよ、可愛い猫だったんだがね……」
深刻そうな顔で言う藤堂に、良太は想像をたくましくして言葉をなくす。
「え……それじゃ……」
「ちょっと、勝手に故人みたいなこと言わないでくれます? 藤堂さん」
割って入ったのは浩輔だ。
「チビスケはこっちはうるさいって寝室で寝てます」
ビシッと言い切って浩輔は藤堂をちょっと睨む。
「ハハハ……そう、チビスケは河崎家の主でね、達也もその足元にはひれ伏すという」
良太の肩から力が抜ける。
「ったく、藤堂さん! からかわないで下さい。ああ、そういえば河崎さんて、猫については妙に詳しかったですよね、イタリアロケの時も」
「そうそう……あんな顔して、チビスケにはゲロアマだからな」
「でも藤堂さんも、動物愛護団体とか盲導犬協会とかに、いろいろ寄付してますよね」
浩輔が言うのに、良太は藤堂はやはりあなどれないと再認識する。
「喜んでもらえればワンコもニャンコにもサンタは参上するんだ」
ニカニカ笑う藤堂の手元で、またドアフォンのランプが点滅する。
「はい、ああ、良太ちゃんのお友達ですね? 左端のエレベータでどうぞ」
沢村が来たらしい。
「俺、連れてきます」
良太がドアを開けると、すぐ沢村はやってきた。
「雨でさ、冷てぇのなんの。せっかくのイブも台無しって感じ」
濡れたコートを脱ぎながら、沢村が言った。
「お友達って沢村選手だったの? あ、そっか、『パワスポ』で」
現れた沢村が関西タイガースの沢村とわかり、藤堂はまた大仰に声を上げる。
「逆ですよ、お友達だったので、『パワスポ』なんです」
笑って訂正した沢村は抱えていた包みを藤堂に差し出した。
「『越の寒梅』と『酒盗人』です。ロードに行くたびに、好きなんで買うんですよ」
「いろいろともらっちゃって嬉しいなあ、『サンタ、感激!』なんちって」
藤堂はおそらく若者にはわからないだろう愚にもつかぬことをハイテンションで口にする。
「何モノ? あいつ、一人受けで」
こそっと沢村が良太に耳打ちした。
「あれは仮の姿。実はキレモノのスーパーマンなんだ」
「はあ?」
そのようすを見ていた浩輔が苦笑いを浮かべ、沢村のコートを受け取って、クローゼットにかける。
「あら、沢村くんじゃない」
ひとみが目ざとく声をかけた。
「どうも、ひとみさん、おや、ヤギさんじゃないすか」
「おう、沢村、先にやってるぞ」
「なんすか、それ、焼酎?」
沢村は早速、下柳と同じものをもらってちょうど佐々木と直子が座るソファの向かいに陣取った。
なんだかな、と良太はワインをもらい、沢村の隣に腰をおろした。
「そういや、かおりちゃん、今頃白馬だよな」
「え、何で知ってんだよ」
年明けの大和屋のイベントに出場することになっている沢村を佐々木たちに紹介しようと思っていた良太だが、驚いて沢村を振り返る。
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