ACT 2
JAL〇〇五便十三時三十分ニューヨークジョンFケネディ空港発、翌十六時三十分成田着予定。
やっと、工藤が帰ってくる。
「これでようやく枕を高くして眠れるわ、良太ちゃん」
鈴木さんもほっとしたようすでオフィスの花を生けていた。
「もう、あんな心臓に悪い驚かしは、なしですよ~」
成田で工藤を出迎えた良太は、精悍な中に心なしかやつれた表情を見て、心を痛める。
「とにかく、今日はゆっくり休んでください」
「向こうでいやってほど休養した。それより、仕事の方はぬかりはないな?」
「は……い」
例の話をいつ話そうかと考えている良太は、つい返事も小さくなってしまう。
だがもうすでに本ももらっている。
鴻池に付き添われてディレクターやスタッフにも挨拶済みだ。
「何だ? その返事は。何かあったのか?」
「え、いえ…」
何かまだ言おうとした工藤だが、すぐに携帯のコール音が鳴り響いた。
車の中でどう話を切り出そうと思いつつも、恐ろしくて言えないまま、会社に到着してしまった。
無事を喜んで工藤を出迎えた鈴木さんや奈々と話す間もあらばこそ、戻ったばかりの工藤に、立て続けに電話が殺到する。
その一つが、ドラマのディレクターからのものだった。
「工藤さん、お帰りなさい~」
そこへアスカが秋山を従えて帰ってきた。
「よかったな、良太」
秋山に目配せされて、良太は苦笑い。
良かったのは確かだが、良太は何しろ、工藤の電話の内容が気になって仕方がない。
「一体、何の話をしているんだ!?」
久々の工藤の怒鳴り声に、オフィスはシーンと静まり返る。
「広瀬良太はうちの社員だが………」
きれぎれに工藤の口からもれる言葉の端端からも、工藤が相当怒っていることがわかる。
間もなく、工藤が受話器を置いた。
「一体、どういうことか、説明しろ、良太」
怒気を含んだ工藤の声は、今迄聞いたことがないほど怜悧だった。
良太は覚悟を決めて、地獄の閻魔大王よりも怖ろし気な工藤の前に行く。
「実は、鴻池さんから言われまして……」
良太は鴻池に説得されてドラマ出演を承諾したことをポツリポツリと説明した。
「何の権利があって勝手にそんなことを決めたんだ?」
一通り説明を聞くと、工藤は聞き返した。
「でも、鴻池さんが……」
「鴻池さんはMBCのプロデューサーだったが、この青山プロの人間じゃない。それを何故、俺に一言も相談もなく勝手にお前が決めるんだ? 俺の代理で顔を出せとはいったが、いつからきさま、俺に成り代わったんだ!」
「そんなつもりは……でも、鴻池さんがこの会社のためだって…俺もそう思って…」
「ばかやろう!」
怒号はそれこそ地獄の底からの唸り声のようにオフィス中に響き渡った。
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