ぶなの森12

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「ああ、えっと『ぶなの森』無事オールアップです。あ、俺、明日、ヤギさんと『知床』の打ち合わせで……」
 とっとと立ち去りたいばかりの良太は適当なことを並べ立てる。
「今夜はあいてるんだろう。メシでも食うか」
 良太の言葉を遮るように、工藤が言った。
「……長いこといなかったから、ナータンがご機嫌ななめだし、今日はいいです」
「そうか、じゃあ、明日の晩、時間あけておけ」
 すかさずそう言われて、良太はしばし戸惑う。
「俺は…俺はうまく立ち回るなんてできない………!」
 良太は工藤を振り返って言った。
「なんだ、俺に女の扱い方でも指南したいってか? あの不倫好きな女とおつき合いするわけか」
 工藤の言い草に良太はカッとなる。
「菜摘さんのことを、そんな風に言うな!」
「またあの女にすっかりたぶらかされたもんだな」
「うるさい! 俺はあんたみたい、嘘つきなヤロウにはなれないってんだよ!」
「嘘つきって、またガキみたいなことを」
 工藤は鼻で笑う。
「ガキで悪いか!? 何が、あの女とは仕事も終わっただ、会う暇なんかあるかとか言いやがって、ドラマ向こうで放映するんだろーが!」
「そのことか、どうせそのうちわかることだしな。あそこで話したら、お前はまたそうやって喚くだろうが」
 しゃらりと言われ、良太は悔しくて唇を噛む。
「俺はすっかり忘れてたよ、あんたが人非人だってことを!」
「休養が足りないせいだな」
「あんたには……嘘が多すぎる………俺は、あんたみたいにうまく立ち回ることなんかできないし、やっぱりあんたみたいな嘘つきヤロウとつき合えるほど大人じゃない」
 泣くまいと思っても涙がポロポロこぼれる。
 良太は鼻をすすり、自分で何をやっているかわからないまま、ノートPCが入ったセカンドバッグを掴み、ドアに向かう。
「あんまり泣くと、明日の仕事にさしつかえるぞ」
「っせぇや、腐れ外道!」
 精一杯の捨て台詞を吐いてオフィスを出ると、良太はエレベーターに乗り込んだ。
 良太が出て行ってしまうと、工藤はアームチェアに深く身体を沈みこませ、大きく息を吐いた。
「……ったく!」
 あんなことを言うつもりはないのに、ついついまたやってしまった。
 苛めて泣くのを見るのが可愛いなんざ、まったく低次元のガキの心理だ。
「あんたさ、向こうの局でドラマ放映するって良太に言ってなかったのかよ」
 昨日の時点で、工藤は井上からそんな電話を受けていた。
 こんなに早く良太に知れるとは思わなかった。
「後ろ暗いところがあるからかしれないが、ま、とにかく、早いとこ謝った方がいいんじゃねぇ?」
 言うだけ言って井上は切ってしまった。
 まずいとは思ったが、夕べ打ち合わせが終わったのは真夜中だった。
 今日は何とか良太と話さないと。
 そんなことを思い、苦々しい顔でテレビ局を歩いていれば、周りの人間は危うきに近寄らずとばかり、工藤を避けて通る。
 後ろ暗いところなんかないからこそ、良太がつまらぬことを考えないようにあえて言わなかったのだ。
 それがどうやら裏目に出た。
 しかも、菜摘とのあんな現場に出くわしてみろ。
 ああでも言うしかないだろう。
 さて、どうしたもんか。
 


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