って、俺、野球、当然、やってたよな。
いや、まさかね~。
そんな、都合のいい、ってか、偶然、ってか………
「ハハハ………まさかね………」
良太は窓に向かって首を横に振った。
「透明人間と話してるのか?」
唐突に後ろから低いドスの聞いた声がした。
「わっ!」
後ろを振り返った良太はつい喚いた。
「社長、いつの間に帰ってきたんです? お疲れ様です」
工藤が帰ってきたのも気づかず、良太はああだこうだと思いを巡らせていたのだ。
フン、と鼻で笑い、工藤は奥の自分のデスクに向かう。
「あら、お疲れ様、工藤さん」
キッチンにいた鈴木さんと万里子が出てきた。
「来てたのか、万里子」
鈴木さんがすかさずお茶を持ってきて工藤のデスクの上に置いた。
「お疲れ様です」
「ありがとう」
工藤はブリーフケースを開いてタブレットを取り出した。
「そうだ、ねえ、工藤さん、ほら、千雪さんの最初の映画、あの時、ロケ行ったでしょう? 横浜だっけ? 横須賀? 何か、高校の野球部の傍の」
「川崎だ」
「川崎!?」
万里子の質問に、即答する工藤に呼応するように良太が声を上げた。
「マジ?…え?」
「何をきょどってるんだ? 良太」
一人でまた首を振る良太に、すかさず工藤が突っ込みを入れる。
「え、あ、え、いや、別に………何でも」
何で?
良太は自分のデスクに戻り、パソコンのモニターを睨み付けた。
頭の中はかなりざわついていた。
というより、脳裏に浮かんでいた男の顔が鮮明になり、勢いよくその時のシーンが蘇った。
高校二年生の時のよく晴れた秋の放課後のことだ。
地区大会を控えてその日も練習をしていた。
良太の大暴投でちょうどネットの破れ目からボールが外に飛び出してしまった。
運悪くすぐ近くでロケをしていた一団の方へ転がっていった。
良太とキャッチャーの肇は慌てて走り寄って、ボールの傍に立つ男に声をかけたのだが。
「こええええ、鬼みたいに睨んでんだぜ? あのオッサン!」
ようやくボールを返してくれたものの、男に思い切り睨まれた良太はつい声高になった。
「おい、聞こえるぞ、良太」
肇は良太を窘めながらロケ現場を振り返ったので、良太も思わず振り返ると、まだそのオッサンがこちを睨んでいた。
キーボードの上の手が止まる。
ついつい口元がへの字になってしまう。
ってか何?
まるで運命のなんちゃらとか?
ウッソだろお?
ニアミス!?
良太は眉を顰めながら苦笑する。
「今度は変顔の練習か? 夕方には戻る」
また出かけるらしい工藤は怪訝な顔で傍を歩きしな良太に声をかけた。
「あ、あ、いってらっしゃい」
「工藤さん、相変わらず忙しいわねえ」
仕事が終わった解放感からか万里子はのんびりと口にした。
「川崎だったんだ、あれ」
万里子はまたさっきの話題に戻る。
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