「だよな。俺も社長には世話になってっからよ。こんなとこで、工藤に引導を渡されてたまるかよ」
小笠原が声高に言った。
「そうですよね! ありがとうございます!」
良太はまた皆に深々と頭を下げた。
「チラッと話にもあったように、警察より早く、千雪さんらが動いてくれて、情報を集めています。我々は仕事を怠ることがないように、社長の留守を守るのが先決です」
秋山が淡々と言った。
「とにかく我々はきっちり仕事をしましょう」
良太が秋山に続けて拳を握りしめた。
「おい、良太、お前肩に力入り過ぎ。それに、お前が倒れでもしたら、それこそ会社ズダボロになるからな、俺にやれることは何でも言え」
小笠原が断固として言い放った。
「わかった」
それぞれが仕事に戻っていくと、鈴木さんが黙ってコーヒーを入れて良太のデスクに置いた。
「とにかく無理しちゃだめよ」
「ありがとうございます」
いつもながらに鈴木さんの思いやりは身に染みて伝わってくる。
平造は寡黙にただ、皆にお茶を入れたりと動いていたが、何かしていないと落ち着かないのだろう、裏庭の手入れをすると言って出て行った。
そういえば、平造さんは刑務所に入っていた経験があるんだっけ。
工藤に以前聞いたことがあるが、平造が罪を犯したわけではなく、組長か誰かの身代わりだったと、工藤はそのことに対して憤りを持っていたようだ。
何も罪を犯したわけでもないのに、何年も刑務所で暮らし、出てきてからはひたすら工藤の面倒を見ていた。
曾祖父が亡くなる時に、密かに平造を会わせた娘の多佳子は、平造は前科ありとなっているが、実際は平造は真面目な男で、身代わりになっただけだと伝えて曽祖父の信用を得て、工藤を平造に託したらしい。
そこのところは詳しくは聞いてはいない。
平造や工藤が、ほんのたまにぽつりと、当時のことを漏らすのを良太が耳にしたというだけの話だ。
深く追求するべきものではないような気がして、話してくれた時に聞くようにはしている。
その平造の心のうちはいかばかりなものか、良太も慮った。
平造は実に工藤に忠実に仕えてきた男のようだ。
前に平造がぎっくり腰をやった時に、良太は工藤に思わず、親みたいなもんじゃないのか、などと生意気なことを言ってしまった。
だが、実際工藤にとっては親以上の存在ではないかと思うのだ。
何もできずに手をこまねいていることが平造にとっていかにもどかしいか。
良太にも痛いほどわかる。
工藤のことは接見している小田や、いろいろ調べてくれている千雪らにとりあえず任せて、良太には今、工藤が動くはずだった仕事をこなすという使命があった。
よし、と良太が立ち上がった時、電話が鳴った。
「はい、少しお待ちくださいませ」
電話を取った鈴木さんが良太に言った。
「『MEC電機』の波多野さんからお電話です」
それを聞いた良太は一瞬、身を固くした。
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