翌日は朝から良太は出ずっぱりだった。
工藤が顔を出すはずだったスタジオでは『田園』の撮影が行われていた。
朝『レッドデータ』のスタジオに顔を出し、昼からはこちらに向かったのだ。
「おや、良太ちゃん」
久々に見た脚本家の坂口は、景気のいい声で良太ににっこり笑った。
「何、工藤がくるってことだったが、何か別件が入ったか。まあいい、良太ちゃんなら大歓迎」
ハハハ、と良太は空笑いで、坂口に肩をポンポン叩かれる。
坂口が工藤はどうしたこうしたと突っ込んでこないことがありがたかった。
「良太ちゃん、久しぶり」
こちらは相変わらず凛々しくも優しい笑顔で、良太のところにやってきた。
「お疲れ様です、宇都宮さん、あ、これ、ジェラートです。お早めにどうぞ」
三つの紙袋には、ジェラート六個入の箱が入っている。
「お、これ、知ってる。前に女の子が病みつきって言ってたジェラートだ」
宇都宮の声に、俳優陣がわっと群れる。
良太はスタッフにも二袋渡した。
「ありがとうございます!」
「何かまたやつれてない? 良太ちゃん、高広にこき使われてるんじゃない?」
山内ひとみはまだ工藤のことは知らないはずなので、「いえいえ、いつものごとくです」と笑っておく。
撮影は順調に行われていた。
竹野は坂口がこの役は彼女でと選んだだけあって、宇都宮との絡みも息があっている。
宇都宮を真剣に愛している女性の姿を演じていて、ここにきてその真骨頂を発揮しているようだ。
カットがかかると、さっとその表情が一変するところが、すごいと良太は思う。
「良太も食べたら?」
椅子に座ってジェラートを食べていた竹野が近くに立っている良太に気づいて言った。
「いえ、ちょっとお腹冷え気味で」
「久しぶりじゃない。ほかの仕事忙しいの? あれ、小林千雪原作のドラマ、やってるんでしょ?」
良太は苦笑いした。
「まあ、はい」
『からくれないに』のことだが、まだ正式発表はしていないので、そこそこに返事をしておく。
「あたし、好きなんだ、小林千雪。全部読んでるし、次はあたしも出たいなあ。なんか正義の味方、みたいな役で」
竹野がボソリと言う。
「え、そうなんですか? そのうちやれるチャンスあるんじゃないですか? 今までにない竹野さんの視野が広がるきっかけになるかもしれませんね」
今の良太にとっては、その正義の味方、しかも超能力で何でもわかってしまうようなスーパーマンがすぐにでも現れてほしいところだった。
工藤がどうしているか、何を考えているか、気にしないではいられない。
何かの拍子にどうしても考えてしまう。
今までにも遠くヨーロッパ辺りを工藤がうろついていることなんかいくらもあったのだが、顔を見られない、声すら聴けないだけでなく、連絡が取れない、というのが一番きつい。
さすがの工藤も、今回のことでは参っているのではないかと思ってしまう。
「何か心配事?」
良太は竹野を振り返る。
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