恋ってウソだろ?!27

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 最近は若者のテレビ離れが進んでいるという。
 メディア関連の仕事をしていれば、へえ、そうなんだ、では見過ごせない。
 先見の目を以って動かねばならない広告業界にあっては、戦々恐々と日々動向を見極めねばならないのだ。
 それでも、そんな中「へえ、そうなんや」とのんびりマイペースでしか動かない人間も稀にいる。
 しかも、テレビCMなどを創る側にありながら、あまりテレビを見ないという。
 曰く、「街を歩いたりしてると、いろいろ目に入ってくるし」。
 先入観を持たないで創り込めるという理由もある。
 とても弱肉強食の世界に生きる者の言葉とは思えないにもかかわらず、彼が創り上げたものは明日を先取りする云々という評価が業界ではついて回る。
 センスや天賦の才こそ誰にでも備わっているものでもないし、努力して得られるものでもない。
 自然体でいながら、これだ! というものを創ってしまうのが、佐々木周平を天才と言わしめる所以なのだが、今回の仕事もその閃きで創ってきたというラフを見せられて、プラグインの面々は唸った。
「うーん、これはむしろプラン三つともどれも捨てがたくて選べないってくらいだな~」
 いつもの煙に巻いたような藤堂節さえ出てこない。
「しいていえばプラン1かな」
「ローカルではもったいなさ過ぎって気がしますね~」
 後ろから覗いた三浦までが口を挟んでくる。
「夕べやり始めたら終わらなくて、気づいたら朝になってて、えらく寒くて参ったわ」
 十一月初旬は温かい日が続いていたが、昨夜あたりから寒気団が関東圏まで降りてきたせいで、今朝は急激に気温が下がったのだ。
「佐々木さん、無茶しないでくださいよ」
 オフィスに来てからくしゃみをしていた佐々木を気遣って、浩輔が温かいミルクティーをいれてきた。
「いつになく気合入ってしもて」
 プランの中で引っかかっていたところをクリアできたので、昨夜は一気にやってしまった。
 それだけでなくここ数日、佐々木はよく歩いた。
 基本、見ること、それが佐々木のやり方だ。
 人が集まる場所、昼、夜。思い立つと「ちょっと出てくる」と直子に声をかけてふらっと街に足を運ぶ。
 だがこのところ、佐々木が外に出るのは、頭を冷やすという目的もある。
 予期せず呼び覚まされるトモの声や笑顔や指の熱さ。
 頭の中をトモが支配して沸騰しそうになり、どうしようもなくなって、佐々木は自分のデスクを離れざるを得なくなるのだ。
 ただし、風がきつく空気がかなり冷え込んでいたらしい。
 お陰でどうも風邪気味だ。
 トモが約束どおり佐々木を迎えに来て箱根に向かったのは先週末、正確に言えば金曜の夜のことだった。
 

 


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