恋ってウソだろ?!79

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「……お前、冷静になって考えてみろ。な? 三冠王の相手がこんなオッサンやなんて、人に言われへんやろ? ………お前ちょっと勘違いしてんのや」
 無理やり佐々木は沢村の手を離し、立ち上がる。
「勘違い? あんたがどうしても勘違いにしたいんなら、それでもいいさ。わかるまでここから帰さない」
 投げやりな沢村の台詞に、佐々木は眉を顰めた。
「何……言うて……」
「あーあ、こんな雪降ったら当分車動かないし。スタッドレスじゃないから」
 それを聞いて顔を上げた佐々木は、思わず窓の傍に歩み寄る。
 いつの間にか大きな窓一面に白い雪が降り注いでいる。
「……え……」
 雪は湿り気を含み、次第に殺風景な裸の枝枝や庭を白く覆っていく。
 携帯どころか、財布の入ったバッグまでスタジオに置いてきてしまった佐々木には、沢村の車しか今のところ、東京に戻る手段はないのだ。
 しかも沢村の言うとおり、この雪ではタイヤを換えるかチェーンでもつけなければ、箱根の道を下るのはかなり難しいだろう。
 今の沢村にはチェーンをつけろと言って、素直に聞きそうにない。
 きれいな雪がこんなに恨めしいと思ったことはなかった。
 まるで下界からこの空間を隔絶させようとでもいうように、見る間に雪は降り積もる。
 佐々木は呆然と、そして途方に暮れた。
「佐々木さん……」
 背後で沢村が呼んだ。
「あんたは怖いんだろ? 俺が人気商売だから、あんたの奥さんみたいに、あんたを置いてっちまうんじゃないかって」
「……な……!」
 いきなり図星をつかれて、佐々木は肩を震わせる。
 そうだ、ほんとはそれが怖かったのだ。
「俺はあんたを置いて行ったりしないし、あんたは誰の代わりでもない」
 すぐ後ろで沢村が言った。
「寄るな!………」
 佐々木はするどく言い放つ。
 躊躇いがちに沢村が手を伸ばす気配がした。
「触るな!…………これ以上、お前に近づいたら………もう、戻れなくなる………」
 怖かったのは、そう、トモに何もかもががんじがらめになって、身動きが取れなくなるからだ。
「わかった…なんて言うわけないだろ……どこへ戻るんだよ? あんたの居場所はここなのに」
 背後から佐々木の存在を指で確かめるように、沢村はしっかりと佐々木を抱きしめる。
 その熱とともに背中から伝わってくる沢村の鼓動を感じて、佐々木は身を固くする。
 噛みつくように沢村が佐々木の首筋に唇を這わせた途端、佐々木の身体は戦慄した。
 このまま沢村の手に堕ちたら、せっかく沢村のために離れようとしたことが無駄になってしまう。
「あかん、離せ……っ!」
 沢村の腕を外そうとわずかな抵抗を試みる佐々木だが、むしろそれは沢村の中にある暴虐な領域を逆撫でした。
 佐々木の腕を掴んだまま無理やり毛足の長いラグまでくると、沢村は佐々木のからだごとラグに倒れこんだ。
 佐々木は腕を突っ張り、沢村を押し退けようとしたが、ただでさえウエイトがある大きな男は佐々木に覆い被さり、その力を封じた。

 


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