「忙しそうやな、相変わらず」
良太がお茶の後片付けをしていると、研二が声をかけてきた。
「お疲れ様です。今日はありがとうございました」
「いや。まあ、京都では匠のこと、よろしゅう頼むわ」
「あ、はい、もちろん」
良太はやはり優し気な笑みを浮かべている研二を見上げた。
研二の視線は、撮影に向かっている匠に注がれている。
なんだかな。
良太は研二の優しさが図り切れず、小首を傾げた。
檜山が研二の優しさを嬉しいと思っているのなら、いいのだが。
研二が檜山に声をかけ、門から帰って行くのが見えた。
その時檜山に目を移すと、一瞬、檜山が泣きそうな表情で研二の背中を見ているのに良太は気づいてしまった。
あーあ。
家の中に戻って行った檜山の気持ちがダイレクトに伝わってくるようで、良太は自分の胸まで痛くなった気がした。
研二にとって檜山はいったいどういう存在なのだろう。
親しい友ということだろうか。
研二は千雪にも優しかった。
スキー合宿の時のことを今思い出すと、千雪のことをよくわかっていて、世話をしないではいられないというような雰囲気だった。
檜山ともそんな感じで付き合っているのだろうか。
でも研二さんと千雪さん、相思相愛だったとか、匠、言わなかったか?
なんで?
だったら、どうして二人はそのままでいなかったんだろう。
京助なんかより、ずっと研二さんの方がいいような気がするのに。
ついまたそんな余計なお世話なことを考えてしまった良太は、いけね、とラビリンスのような思考を断ち切って、後片付けに走った。
「お疲れ様です」
良太は工藤や日比野監督らに声をかけた。
「じゃ、俺はこれでスタジオに向かいます」
「ああ」
「明日、成田まで送って行きます」
「HIDAKAがあるだろう。自分で行くからお前は自分の仕事をしろ」
せっかくの申し出もすげなく却下されて、良太は、心の中では、ちぇ、と思う。
十一時発の直行便だが、ギリで取ったチケットはエコノミーしかなかった。
時間は多少早く着くが、エコノミーは工藤には結構きつそうだ。
京都の撮影が終わったら、俳優陣はニューヨークに向かう予定になっている。
工藤はニューヨークでの撮影が終わるまでは帰ってこないということになる。
ま、しょうがないけどさ。
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