残月3

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「はい。次はきっと頑張れますよ」
「わかりました! 頑張ります!」
 二村も笑った。
 良太は志村や檜山にもサンドイッチを持って行った。
「良太ってさ、時々、工藤さんより怖って思うわ」
 ボソリ、と志村が言った。
「何ですか、それ」
 心外なと良太が眉を顰める。
「二村さん、良太に助けられたつもりで、実は怖いこと言われてるって気づいてないし。百二十パーセントとかって」
「うーん、そうっすね。二村さんて、スポンサー推しだから工藤さんも了解したわけじゃないですか。でも見てると考えてやってないなって。彼女の場合、百パーで満足してたらそのうち消えちゃいますよ。工藤さんが怒るのそこなんだと思うんです。彼女クラス山ほどいるし」
「ほら、怖いこと淡々と言うし。まあ、俺も、口には出さないけど似たようなこと思った。あれでやる気が出たら、良太Pの株がまた上がるな」
 からかい半分の志村を、「やめてくださいよ」と斜に睨む。
 その時、工藤が日比野と何か話してから良太を見た。
「これから東洋商事ですか?」
 良太は工藤に駆け寄った。
「あとは頼む」
 それだけ言って工藤はタクシーを呼ぶために通りを渡ろうとした。
「あ、ちょと待って、工藤さん」
「何だ」
「一つだけでも食べてってください」
 良太は持っていた袋からサンドイッチのパックを取り出すと、蓋を開けた。
 工藤は仕方なさそうに一つをつまんで咥えた。
 良太が缶コーヒーのプルを開けて渡すと、工藤は手に取って信号が変わった横断歩道を渡っていった。
「やるねえ、良太くん」
 振り返ると日比野が立っていた。
「工藤さんに有無を言わせず食事をとらせるとか」
「ったく、俺は工藤さんのママかって思いますよ」
 良太はブツブツと口にする。
「いやいや、良太くんのこと工藤さん頼りにしてるんじゃない?」
「とんでもない、ナマイキなヤツくらい思ってんですよ」
 日比野がサンドイッチをまだもらってないというので袋から新しいパックを出して缶コーヒーと一緒に渡すと、良太は志村や檜山がいるところに戻って、工藤にひと切れ渡したパックを開けて残りを口に入れる。
「工藤さん、東洋商事?」
「ええ。大事なスポンサーですからね、何を置いてもって感じ」
 志村に聞かれて良太はコーヒーを一口飲んでから答えた。
「東洋商事って、綾小路さんとこですよね?」
 それまで黙ってサンドイッチを食べていた檜山が口を挟む。
「ええ。綾小路さん、ご存じですか?」
 ああ、千雪さん経由だからか。
 良太は勝手にそんなことを考えた。
「ご存じってほどじゃないけど、十一月にやる舞台、紫紀さんがぜひ観たいって言ってるって千雪から」
「十一月舞台やるんですか?」
 良太はつい聞き返した。
「良太も来る? ボスと一緒に」
 撮影では工藤のことを檜山はボスと呼ぶようになっていた。
 タカヒロ、はプライベートと分けているらしい。
 撮影を見ていて、檜山の舞台に興味を持ったのは確かだ。
 おそらく工藤も観たいところだろう。
 ただ、時間が取れるかどうかが問題だ。

 


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