残月33

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「ええ~? せっかくやる気になってたのにぃ」
 二村の言葉があまりに自己中で、良太はつい溜息を洩らした。
 ちょうど撮影が終わったばかりの牧が顔を上げると、二村の睨み付けるような目と出くわした。
 良太も二村が牧に挑戦的な視線を向けていることに気づいて、なんだ? と思う。
 そのうち二村のマネージャー下山が二村を車に乗せ、ロケ現場を離れた。
「やれやれ、どれだけ甘やかされて育ったお嬢ちゃんだ? 彼女。自分の都合でスケジュールを変えられると思っているようだね」
 座長である志村が良太の横に来てそんなことを呟いた。
「いやあ、もう、竹野さんで苦労したので、彼女をヤバイ人扱いしてましたけど、二村とは比べるのも失礼なくらい竹野さんはプロですよ」
 志村は良太の感慨深い言葉に笑った。
「工藤さんがいたら、ド素人に合わせるようなスケジュールはない、とか言いそう」
 さらに志村は声をあげて笑う。
「良太ちゃん、いよいよ工藤さんと思考回路が同調してきたみたいだね」
「それはごめんです!」
 二村がいなくなったので、やれやれと思い、はたと檜山の姿がないことに気づいた。
 あれ、匠!?
 良太はうっかり目を離してしまったことに自分を叱咤して、あちこち探して回る。
 そういえば、今のシーンに檜山の出番はなかったのだ。
 いくら何でもいい大人だし、と言い聞かせながらも焦りを感じないではない。
 ようやく屋内の座敷に横たわっている檜山を見つけた良太は、脱力した。
「ここにいたんですか」
 すると寝ていたらしい檜山は目を開けて身体を起こした。
「良太、俺がまたどこか行ったかと心配したのか? 心配しなくてもちゃんと言いつけは守ってるって」
「言いつけって」
 良太は、はあ、と大きく息をつく。
「あの子、帰ったんだろ? 二村。さっきそこでマネージャーにぐちゃぐちゃと言いたい放題言ってたぜ? 衝立があるから俺がここで寝てたの気づかなかったみたいで」
「言いたい放題?」
 良太は怪訝な顔で檜山を見た。
「良太のこと、彼女が悪いみたいに言いふらしたとか何か根に持ってたみたいで、工藤さんに言いつけて辞めさせてやるとか、あと、牧ってやつのこと、今に見てなさい、仕事なんかできなくしてやるとか」
「はあああ?」
 自己中で我儘だとは思ったが、どうやら二村は思った以上に裏表があるらしいと良太は再認識した。
「良太を辞めさせるとか、って、わからないバカなやつっているもんだな」
 檜山はフンと鼻で笑う。
「今は良太が総指揮官だってのに」
「へ、俺はそんな大それたもんじゃないし」
「いやそうだろ? ボスの片腕で今は代理じゃん。やっぱ二村、見かけでしかものを見られないんだな」
「それってどうゆうことだよ。みかけって」
「ハハハ、ほら、俺も新人俳優かなとか、最初思ったし」
 良太の突っ込みに檜山は笑う。
 


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