残月34

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 先日、いろいろ話をしてから、良太の前ではなのかもしれないが、檜山は笑うようになった。
「どうせ俺はガキっぽくて、下っ端って顔してるさ」
「まあまあ。良太を辞めさせるとかは金輪際無理な話だからいいけどさ、牧ってやつのこと、ちょっと注意しといた方がよくない?」
 また表情のない顔にもどった檜山は言った。
「そう、だな」
 スタッフにも最初文句をつけられていたが、ひょっとして牧は二村にも睨んでいると思われたのかもしれない。
「いや、牧、近視らしくて。それにあのでかさでオーラ半端ないし、誤解されやすいみたいでさ」
「は?」
 良太は牧とスタッフとのいざこざのことを話した。
「なるほど。何つうか、ちょっとしたことが気に食わなくて、平気で人を貶めたりするやつっているからさ。二村のこと俺も気を付けてみてるよ」
 檜山の言葉には妙な重みがあった。
 ひょっとして、匠もそんな目にあったんだろうか。
 高校から家を出て祖父の養子になったのだという檜山にはよほどのことがあったのだろうとしか、良太には想像できないが、兄を推す継母とその一派から嫌がらせを受けていたのかもしれない。
「悪い、仕事とは違うことなのに」
「いや、何か自分のことじゃないからさ、刺激が何もないからちょうどいい」
「でも、くれぐれも危ないようなことはしないように」
 良太は念を押した。
「任せなさい」
 檜山は軽く請け負ったが、良太の脳裏には一抹の不安がよぎる。
「小杉さんや谷川さんにも話しておくよ」
 そんなこんなで何とかその日の撮影が終わったのは午後七時過ぎだった。
 スタッフに挨拶をして車に乗ろうとした時、良太の携帯が鳴った。
 鳴り分け設定をしている携帯は工藤から電話だと告げている。
「はい、お疲れ様です!」
 良太はとりあえず車に乗り込むと、電話に出た。
「何か変わったことは?」
「こまごましたこと以外は別に」
「二村が何かしでかしたのか?」
「え、何で知ってるんすか?」
「わざわざさっき美聖堂の斎藤さんが俺を電話で叩き起こしてくれたのさ」
 ニューヨークとの時間差は約十三時間、今向こうは朝の六時過ぎというところだ。
「斎藤さんが? 何て?」
 なるほど、二村は斎藤に告げ口をしたというわけか。
「お前を名指しで辞めさせろとか、わざと足を出して転ばせたやつがいたとか、何だかだ文句を言われたらしい」
「へえ。俺もじゃあ告げ口しちゃいますけど、それウソですから。彼女虚言癖があるのか、牧を目の敵にしているみたいで、自分で転んでおいて牧のせいにしたんです。俺がせっかくそれを庇って勘違いで済まそうとしたのに、言い張るし。実際スタッフから皆、呆れてますよ」
 良太は二村の所業を並べ立てた。
「まあ、一つ一つは幼稚園児の嫌がらせみたいなもんなんですが、足をちょっと擦りむいたってくらいで、問題は牧もスタッフもスケジュールの変更を余儀なくされて迷惑を被ってます。志村さん曰く、彼女の都合でスケジュールが変えられると思っているみたい、です」
 何だか良太自身子供じみてムキになっている気がした。
 それもまたひどくバカげている。
「お前らしくもない、ガツンと言えばいい」
「らしくもないって、工藤さんじゃあるまいし」
「とにかく撮影の進行に差し障りがないように、お前が判断しろ」
 何か良太が反論する間もなく、電話は切れてしまった。

 


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