残月60

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 自主トレはどうするのかと聞いてきた八木沼に沢村がうっかりその話をしたところ、俺もやりたい一緒に自主トレ、とせがまれたというわけだ。
 それでも沢村なら嫌なら絶対断っているだろうし、よほど馬が合ったんだろうかと良太も首を傾げる。
 その辺も沢村に聞いてみるしかないだろう。
 いや、他人と共存できないだろうと思われていた沢村には、むしろいい進歩なのではないかと、良太は思うのだが。
 打ち合わせを終えて、会社に戻ろうと駐車場に向かう良太の携帯が鳴った。
 携帯に浮かんでいる名前を見て、ついつい良太は、げ、と口にする。
「ちょっと久しぶり、良太ちゃん。工藤に続けとばかりに忙しそうじゃねぇか」
 べらんめぇ調の人を食ったような言い回しで、坂口がガハハと笑う。
「別に工藤に続くとか、ないですけど、ドラマ、すごいいい反響ですね」
「まあ、あれくらい手ごたえがねぇと、こっちもやった気がしねぇってもんよ。ところで、二十七から月末あたり、どうよ?」
「どう、というと………」
 ドラマ「田園」のロケの予備日としてそのあたりの良太のスケジュールも流動的に押さえてあった。
「実はその頃、寒冷前線が北海道を通過するってぇ予報があって、西高東低、冬型の気圧配置ってやつ? 今年は札幌から小樽の初雪が例年より早いかも知れねえって」
 それは良太も確認していた。
 残りの北海道ロケは冬の小樽、雪の小樽が条件である。
「でもそれはあくまでも予報だし、十一月に入ってもっとしっかり雪が降ってからの方がいいのでは?」
「まあ、な、ただ俺は身体が空くし、スケジュールばっちりなんだな。良太ちゃん、そのあたり招集かけてみてくれねぇか?」
 十一月まで待ってられないらしい坂口に、わかりました、と良太は答えて、携帯を切った。
「ったく、何でそうせっかちなんだ」
 「大いなる旅人」のニューヨークロケも月末までかかるだろうし、良太も出払うことになると、また鈴木さん一人で留守番ということになってしまうが、仕方がないかと思いつつ、車のドアロックを解除した。
 ドラマの最重要ポイントでもある小樽での撮影となるが、主要人物は宇都宮と竹野の二人だけで、俳優陣ではあとポイント出演のみでワキの俳優数名同行することになっている。
 オフィスに戻ると良太は早速、確保してあるロケ地やホテルに確認をしてから宇都宮と竹野のスケジュールを確かめるべく連絡を入れた。
「やあ、良太ちゃん、俺、全然あいてるから、大丈夫」
 マネージャーに連絡をいれたのだが、その電話は途中で宇都宮本人にとってかわった。
「良太ちゃんも行くんだよね? 美味い寿司屋があるんだ」
「ハイハイ、楽しみにしてます!」
 ウキウキと話す宇都宮に良太は笑いながら答えた。
「良太も行くんだ? じゃ、打ち上げやろ、宇都宮さんがいい店知ってるっていうし」
 竹野もまた良太からと知ると、本人が電話を替わって気前よくOKをくれ、さらに打ち上げの約束をさせられた。
 ドラマいい感じですね、などと竹野と話していると、京都での二村の件で辛酸をなめさせられたことを思い出し、やっぱり竹野は何か文句を言ったとしてもすごい俳優だからなのだと再認識し、また逢えることを嬉しくさえ思う。

 


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