「エミリ」
眼鏡をかけ、ブロンドをひっつめたエミリは冷静で余計な口をきかない分析官のお手本のような人材だ。
「十九年前、NASAの探査機が一つの彗星を見つけました」
話は急展開し、画面がマルガレーテの部屋から宇宙空間に変わる。
「後にラファエロ彗星、かんむり座流星群などと呼ばれるようになりますが、この彗星を見つけた研究グループを率いていたDr.ラファエロは同時にとんでもないことに気づかされました。すなわち、この彗星が約二年後には地球に衝突し、百万メガトン級の運動エネルギーが引き起こすその被害は甚大なものになると」
「え、だって俺七歳ン時? そんな事件あったっけ? 俺ら今も普通に生きてるし、地球は普通に回ってるじゃん」
「黙って聞け」
子供のような茶々を入れるデレクを、ルカがすかさずクールに制した。
「当時の宇宙局長官ヘンリー・クラークがホワイトハウスに通告、即刻アメリカ、ロシア、ドイツ、フランス、イギリス、中国、日本など各国の首脳が急遽ワシントンに集まり、また、選りすぐりの科学者たちがNASAに集結、パニックを避けるため極秘裏に彗星対策プロジェクトが立ち上げられました。地球衝突を回避するために、高エネルギーレーザーを搭載したロケットを打ち上げ、レーザーの衝撃波で彗星を破砕するというものです」
画面にはヘンリー・クラークや各国の要人、そしてロケットエンジン設計プロジェクトの責任者Dr.レナード・ヘリングをはじめ、プロジェクトに携わった科学者の顔が並ぶ。
「何で、レーサーが混じってんの? あれってアレクセイ・リワーノフじゃん、F1の。モデルとかにクソモテの!」
「レーサーで知られているが、Dr.リワーノフはロケット工学や心臓外科の権威だ」
またぞろ画面の写真にいちゃもんをつけるデレクに、ルカが簡潔明瞭に説明する。
「ロシアから彗星対策プロジェクトに参加したDr.リワーノフはDr.へリングと共にロケットエンジン製作の中心となりプロジェクトを成功に導いた立役者の一人です。のちにアメリカに帰化して現在はNASAの某プロジェクトに所属しています」
ルカの説明をエミリが補足した。
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