いつからだろう、彼を見ているケインの目を時折感じるようになった。
それは、ルカも嫌ではなかった。
しかし、別れは意外にあっさりきた。
ルカは学会から惜しまれつつCIRUに入った。
動機は、目の前でテロリストに射殺された人々を見てしまったのが発端だった。
子供の頃、ボストンでテロ爆破事件に遭遇し、ルカを庇った祖母が亡くなったことが瞬く間に脳裏に蘇ったのだ。
「気をつけろよ」
別れぎわそう言ったケインが、まさかCIRUに入るとはルカも思っていなかった。
ただ、今の今まで会う事はなかった。
二人ともそれぞれの上司のもとで、別々の場所で任務についていたからである。
ケインの心は故もなく信じられるような気がした。
きっと彼は自分を護ってくれるだろう、それなら自分も彼を護りたいが、一つだけ、心の隅で気になる事はあった。
何処まで痴れ者なんだデレクの奴!! 女に気をとられて、敵に殺られないようにしろ!! クソバカヤロウ!!
午後八時まであと五分という時間に、二人を乗せた車は、ド・コリニー邸の車寄せに着いた。
車を降りると、明らかにボディガードらしき頑強な男が二人を玄関ホールへと案内した。
指示されたように、Mr.スミスと名乗ると、玄関ホールで二人を出迎えたのはド・コリニー邸の恰幅のいい執事で、メリッサ曰く、フランス語しか話さないマルタン・エルベだ。
ド・コリニー伯爵にもう四十年以上も仕えている慇懃無礼のお手本のような男だ。
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