「ちょっとお邪魔してよろしいかしら? どうしてらっしゃるかと、心配してましたのよ」
「ああ…ええ…どうぞ…」
リッターは口の中でもぞもぞ言いながら、マルガレーテを居間に入れた。
マルガレーテは、クッキーを焼いたのだと、勝手にキッチンに行き、お茶の用意をした。
リッターは腑抜けのようにソファに座っまま、彼女のとりとめもない話を聞き流していた。
「ねえ、Dr.リッター、ちょっと小耳に挟んだんだけど、例の、ESAから盗まれたっていうプログラムαって何なのかしら? あなたはよく知ってらっしゃるんでしょ?」
マルガレーテは大きな目でじっとリッターを見つめた。
「もうそんな話はしたくない。誰がそんなことを言っていたんだね? プログラムαなどと」
「あら、誰でも知ってるわ。何だか重要機密だということ。でもいくらプログラムを手に入れたからって、それがもし開けなければ、何にもならないと思いません? 所詮バカなのよね、テロ・グループなんか」
「もう、止しなさい。聞きたくない」
リッターは眉をひそめた。
「でも気になるわ、そんな大事な機密。Dr.はそのプログラムαの開き方をご存じなんでしょ?」
「知らないね。私はただ、重要機密とだけ知らされていただけだ。私でも誰でも開けないよ。もう、帰ってくれないか? 娘も戻ってくる頃だ」
そう言ってから、リッターは訝しげにマルガレーテを見た。
「何故君は、そんなにあのプログラムのことにこだわるんだ?」
すると彼女は、ほほ笑みながら言った。
「リリー、綺麗になったわね。もう二十歳ですものね。でも、今度はリリーが危ないかもしれないわ」
「何だと?」
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