リッターはその時ぼんやりと、マルガレーテがゆっくりバッグから何かを出すのを見ていた。
その時だ。
バン! と寝室のドアが開いて、両腕を二人の男に取られた娘のリリーが突然彼の目の前に現われたのだ。
リッターは、口をあんぐり開けたままよろよろと立ち上がった。
リリーは恐怖で口も聞けないほど戦いていた。
男の一人がリリーのこめかみに銃を突き付けている。
「何をする気だ? きさまら! マルガレーテ! 君は!?」
マルガレーテがポケットから取り出したのは、9ミリ拳銃だった。
彼女はリッターに銃口を向けた。
「プログラムの開き方を教えていただきたいのよ。本当にもう、おマヌケさんたちばっかりで困っちゃうわ。パスワードは? ご存じのことを教えてくださらない? Dr.リッター」
「きさまらか! きさまらか! よくも妻を! 娘を離せ! 私は何も知らん!」
「何か知ってらっしゃるでしょ?」
「私は知らん! パスワードも何も! 第一あれは、Dr.C本人でなければ開かない。NASAの宇宙局長官の話だ。だからDr.Cがいなくては、あんなもの役にたたんのだ」
リッターは喚くように言った。
「本当?」
マルガレーテが聞いた。
「本当だ! 早く娘を離せ! 出ていけ! 私の家から失せろ! ウジ虫どもめ!」
「分かったわ。今出ていくわ。Auf Wiedersehen! Dr.リッター」
彼女がそう言ったのを聞くか聞かぬかの内に、リッターは胸に痛烈な痛みを感じた。
マルガレーテの銃が火を噴いたのだ。
薄れようとする意識の中で、男が突き付けていた銃が娘の頭を撃ちぬいたのがリッターにもわかったが、彼の身体は悶えながら絨毯の上にくずおれていった。
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