ACT 1
かつてオリンピックが行われたこともあるアルベール・ビル。
ルカは久しぶりの休暇をスキーで過ごすつもりだった。
高級な別荘やホテルが多いこの地を、彼は結構気に入っていた。
クアンティコにいる父親から、新年にはフランクフルトいる祖父のところへに顔を出すようにとメールが携帯に届いていたが、クリスマス・カードを送ったものの顔を出す気分にはなれないでいた。
父は相変わらず仕事に追われているはずだし、母はそんな父を尊敬しているから、何も言わずパーティや慈善事業にいそしんでいることだろう。
おそらく今年のクリスマスも、何処かの教会でホームレス相手にケーキや食事を配っているに違いない。
自分より芯が強いと思われる妹はカリフォルニアの大学の寮から家に戻るかどうかわからない。
家族と一緒にクリスマスを過ごせたらとは思うが、今の彼はどうしてもそんな気分にはなれないでいた。
調度去年のクリスマスの前あたりだった。
あれはドイツ人だった。
ルドルフとか言った、テロ・グループの一人だったが、自分が殺した。
ルカの射撃の腕は年々上がり、今ではパリ支局一の凄腕ということになってしまった。
もし殺らなければ、市民にまた犠牲者が出ていたとはいえ、殺伐とした一年がまた終わろうとしている。
休暇すらろくになかった。
クリスマスくらいはと、ラコスト部長の配慮でやっともらえた休暇だった。
しかし、最近のイスラム系過激派をはじめテロ・グループの横行は目に余るものがあり、一時も気を緩めることができない状態なのだ。
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