その経験もあってテロなどを阻止し犯罪者を捕まえたいとこの仕事を選んだルカだが、親の前で子供を無慈悲に殺すような連中には憤りを通り超えて、やりきれなくなる。
「既にドイツ連邦警察BPOLや各機関、それに我々CIRUが動いていることはやつらもわかっているはずだが、『カフカ』はプログラムを手に入れたものの誰も開くことができないで埓があかずに、ボンの航空宇宙研究所のシュニッツ所長を通じて、直接アメリカ航空宇宙局NASAにDr.Cを要求してきた。マルガレーテの部屋に踏み込んだらこれがあった」
ラコストがそう言うのと同時に大画面モニターに映し出されたのは、マルガレーテの部屋の壁に書きなぐられた文字である。
『我々はDr.Cを要求する。もしこれが聞き入れられなければ、EUのみならず、アメリカその他大多数の国が滅亡の危機にさらされるであろう。手始めはフランクフルトにご注意いただきたい。尚、Dr.Cの命の保証は請け合う。また連絡する。カフカ』
「手始めのフランクフルトでは厳重な警戒態勢を敷いたものの、空港での爆破事件を防ぐことはできなかった。爆破されたのは車一台、使われたのはハンドメイドのIEDで、たまたま通りかかった男女二名が死亡、近くにいた十数名が重傷を負った」
デレクはモニター相手に「ざけんじゃねー!」とキレる。
「何がカフカだ! カフカが墓の下から怒って化けて出るぞ! 何せ、『魔の山』ってくらいだからな!」
真剣にモニターを見ていたルカは、ふうとため息をつく。
「『魔の山』はトマス・マンじゃないのか」
「へ、そうだっけ? あ、ヘーンシン!! の方?」
「どうでもいい! 部長、ところで肝心の極秘機密のプログラムっていったい何なんです?」
茶化した科白を並べ立てるデレクにイラつきながらルカが尋ねると、ラコストは渋い顔をさらに渋くして、そばに立っていた分析官を促した。
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