ハンスがニヤニヤ笑いながら、二人の間に割って入った。
「知ってる」
フランツはほくそ笑み、ロジァに向き直る。
「お前も、今帰っちまったら、せっかくのメインイベント、見損なうぜ」
フランツは自信ありげに言い切った。
ロジァはふと、心配になった。
まさか俺の名を言うつもりだろうか? でも、アレクセイは認めるはずがない。
ウソでもそんなことがスターリングに知れたらクビだと思ってるはずだ。
第一、ゲームだって言っても、俺みてーな、ニューヨークの薄汚いガキが恋人だなんて言ったら、いい物笑いだろう。
けど、フランツが言おうとしてるのが、俺なんかじゃなく、本当に奴の本命を知ってるのだとしたら?
そこまで考えてロジァはズキン、と胸が軋んだ。
愛してると、アレクセイは言う。
けれどアレクセイのことを今一つ信じ切れないものがあるのだ。
だがフランツは無理遣り、ロジァを引っ張って場内へ連れ戻した。
ホールは騒めいていた。
酒を片手に笑う、優雅な遊び人たち。
去年の夏はカルロヴィ・ヴァリで過ごしたが、今年はカンクンがいいな、どこどこの店にダイヤの逸品があって……、誰だれが半年、何とか号のクルーズで……、加えて、車は自分がもらう、いいえ、私がアレクセイに頷かせてみせるわ、そんな科白が飛びかっている。
こいつらには何でも遊びなんだ。
恋愛も人の心も遊びの道具モチーフ。
俺がアレクセイだったら、すっげー困る。
すっげー悩む。
もし自分の大切な人がここにいて、そんなゲームに使われたら。
それにもしも本命ってのがちゃんといるのなら、アレクセイにしたって困るじゃんか。
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