ミュンヘンへ行こう ーハンスー 17

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 フランツはアレクセイを見た。
 それから少し考えてこう言った。
「大概誰でも宝石には魅きつけられます。かくいう僕もこのカフスは父から譲られた家宝の『月の雫』という対のルビーです。ちょっと値はつけられないくらいのものです」
 自慢気に語るフランツを、ロジァはフン、と鼻で笑う。
 ここでフランツは一息つくと、場内を見回して続けた。
「実は、アレクセイの本命の恋人も素晴らしいエメラルドを身につけています。値の付けられないくらいのね。エメラルドのありかを捜し出せたら、そこに彼の恋人は必ずいます」
 おおっと言う声と共に、皆は周りを見回し始める。
 ハンスもこの説得力あるフランツのヒントに、アレクセイに聞き返す。
「アレクセイ、彼の言ったのは、事実か? 今の?」
 アレクセイは冷や冷やして、フランツの言葉を聞いていた。
 何しろ、いくら遊びとはいえ、ここでロジァの名前でもあがろうものなら、真偽のほどはどうでもどういうルートであれプレス沙汰だ。
 ここにいる連中の面々をみても、確率は高い。
 ということは、長官の耳に入るのもあっという間ということになる。
 宇宙局の連中にはもっと早いかもしれない。
 それだけは何としても避けたい。
 冗談だとも言えず、事実だとも言えない、困った状況になる。
 ともあれフランツが宝石という言葉を強調して、皆の目をそっちに向けさせたらしいことは分かった。
 しかし、それが比喩であると気付くものもいるかもしれない。
「事実ならば、車はフランツのものだが」
「事実ですよ」
 アレクセイは認めざるを得なかった。
 せめてそれでロジァの気持ちを静めておきたかったからである。
 しかし、当のロジァは相変わらずアレクセイと目を合わせようとしない。
 フランツの言葉を言葉通り受け取ってしまったからである。
 なるほどね……そういうことかよ。……誰だか知らないが、やっぱあのハンスっておちゃらけ野郎かも。ま、俺には関係ねえってこった。


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