「しかし、つまりヴァイオリンじゃ、罰ゲームには面白くありませんよね? で、ピアノを披露していただくってのは、どうです?」
これには皆が大いにわいた。
「成る程、天才ピアニストの後で、ブザマな姿を曝せというわけか? フランツ」
アレクセイが皮肉を込めて尋ねた。
「そのとおり」
フランツは、嘲笑するように言い切った。
「わかりました。皆さん、せいぜい笑ってください」
アレクセイはピアノの前に座った。
クッソ、フランツのやろう、くだらないことばっかいいやがって!
アレクセイはイラつきながらショパンのエチュード「黒鍵」を弾き始めた。
それでも一応そつなく弾き終えたアレクセイに、拍手喝采である。
アンコールの声まであがる。
これにはフランツは面白くなかった。
皆の前で、恥をかかせてやりたかったのに、これじゃ余計にアレクセイの株があがるだけじゃないか。
しかし、そんなフランツの不満をよそに、アレクセイは何と、先程フランツが素晴らしい演奏を聞かせた「熱情」を弾き始めたのである。
俺に、逆に挑戦する気か?
フランツはほくそ笑む。
アレクセイは意地になって鍵盤を叩いた。
これだけやれば誰も文句はいわないだろ。
そんなアレクセイのジレンマをよそに、ロジァは皆がアレクセイのピアノに聞き入っている間に、ホールを出た。
ちょうど執事を見つけたので、ロジァは声をかけた。
「あ、オッサン、ホテルまで送ってくれ」
「かしこまりました。お車を回しますのでしばしお待ちください」
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