熱気の中から出てくると、寒気が心地よい。
「待てよ。本当に帰るのか?」
慌てて追い掛けてきたのは、ハンスだった。
「放っといてくれてかまわねーぜ。オッサンに送ってもらうからよ」
「せっかくのアレクセイの迷演奏、滅多に聞けるもんじゃないよ」
エントランス前に立っているロジァに、ハンスは言った。
「じゃ、戻って、聞けよ」
「そういえば、君も実は知ってるのか? フランツの言ってた、アレクセイの本命の恋人のこと」
ハンスに問いただされて、ロジァはぐっと言葉に詰まる。
「…んなもん、俺が知るわきゃねー。宝石だかなんだか、んなもん興味もねー」
「なるほど…ね」
勝ち誇ったような口調でハンスは言った。
「何だよ?」
「君はそのアレクセイの恋人にヤキモチを妬いてるんだ?」
ロジァはハンスを睨み付ける。
ハンスは勝手に続けた。
「まあな、俺としても多少ショックではある。本命がいなけりゃ、あわよくば、と思ってたんだが、アレクセイのことを君も好きなわけだ? アレクセイは君のことを、上司の息子で、厄介なガキだなんて言ってたが…」
「ああ、アレクセイの奴に言っとけよ。その厄介な、上司の息子は、とっととニューヨークに帰るから、せいぜい、その本命の恋人と楽しんでこいってよ」
執事がそこにきて告げた。
「お車が参りました」
「Thanks」
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