マイケルはたて続けにフランクフルトの学会があってそっちに行ってしまったし、アレクセイが一緒にいこうと誘ってもロジァは頑として耳を貸さない。
どころか、アレクセイが身支度を整えている間に、また街に出てビアホールでビールでも飲むかと、とっととロジァは行ってしまった。
「あんのやろう!」
ドアが閉まる音を聞いたアレクセイはタイが曲がっているのも構わず慌てて後を追った。
ちょうどホテルのエントランスを出たところで、ロジァを捕まえたアレクセイは、その腕を掴んで目の前に滑り込んだリムジンにロジァを押し込むと、自分も続いて乗り込んだ。
「てめ、何しやがんだ!」
「そんな寒々しい恰好で、冬空の下をうろつくんじゃない」
Tシャツに皮のジャケット、ビンテージものだろうが何だろうが穴がボコボコ開いているだけ、雪が舞うミュンヘンを歩くには見ている方が寒々しいというものだ。
「何着ようが俺の勝手だ!」
アレクセイはハンスの自宅までロジァを強引に連れていったのだが、ぎゃあぎゃあ喚くのもウザったいと、リムジンが門を潜り、やがて十六世紀に建てられたという古い城を改造したハンスの自宅の広い玄関ホールに横付けされるまで、ロジァは顔をそむけたまま、ムスッと黙り込んでいた。
「ようやく今夜の主賓のおでましか、何だか麗しさに磨きがかかったな」
大きな男はアレクセイを玄関ホールまで出迎えて抱きしめた。
「よく来たな。久しぶり」
「お言葉に甘えて。元気そうだな」
一年ほど前仕事でニューヨークに立ち寄ったハンスとはチラッと言葉を交わして以来で、プライベートで会うのはハンスの結婚式以来ではないだろうかと、アレクセイは思い返す。
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