ホテルに帰ってみると、ロジァは荷物をまとめてとっくに部屋を出た後だった。
ベッドルームをのぞいたアレクセイは、はっとする。
ベッドの上に古いアルバムが置いてあり、そしてロジァの走り書きがあった。
『せいぜい楽しんでこいよ。俺はニューヨークに帰る。俺の誕生日にもらったんで、お返しってやつ。街歩いてて見つけたんだけど、俺、あんたがその、ヴァーゲンザイルにヴァイオリンもらうほど親しかったなんて知らなかったし、持ってるだろうから、適当に処分しな。一応、これで、義理は返したからな――――――』
ざっとその走り書きを読むと、アレクセイはロジァの精一杯の意地っ張りが見えた。
本当はよく知りもしないヴァーゲンザイルのアルバムを探して歩いたのだと思うと愛しくてたまらなくなる。
「アレクセイ」
呼ばれて、アレクセイは振り返った。
「まさか空港、行ったのか? 携帯切ってるし」
フランツが言った。
「あのバカ!」
「しかし、もうとっくにおわってるぜ。今日の便」
ハンスが腕時計を見た。
「奴のことだ、空港のホテルか、或いはターミナルに寝ちまう可能性もある」
アレクセイがフロントに降りて支配人に尋ねると、らしき人物がタクシーに乗ったという。
三人は空港に飛んだ。
ターミナルの待合室にいたロジァは、ベンチをいくつか占領すると、ダウンジャケットを被って横になっていた。
「ロジァ!!」
見慣れたダウンジャケットを見つけて駆け寄ってきたアレクセイに、ロジァはいきなり怒鳴られて、目を開けた。
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