ハンスの言い出したゲームに皆は大乗り気だった。
ハンスはゲームの話を持ち出す前に、アレクセイにハッピー・バースデイを言ってから、
「お前には、今、本命の恋人がいるのか?」
と聞いた。
アレクセイは思いもよらぬ質問に一瞬戸惑ったが、ロジァとの口論の後でもあり、「いる」と言わざるを得なかった。
ところがこのゲームである。
アレクセイは困った。
無論ゲームであるし、万が一当ったとしても知らんふりを決めこめばいい。
だが、別の誰かにされてしまったら、今度はロジァがまたつむじを曲げる。
フランツと目が合うと、ほくそ笑んでいる。
もしまた、ここでロジァの機嫌を損ねたら、フランツが割り込んでくる可能性もある。
どうしたものか、とアレクセイは思案に暮れた。
そんなアレクセイの胸中を知ってか知らずか、ハンスはゲームを進めていく。
「折しも明日はバレンタインデー。勝者となれば、この車に花束だけで愛する人が喜ぶこと請け合いです」
ホール中にまた歓声が上がる。
「我こそは彼の本命と名のり出ても結構ですが、それが嘘だった場合、罰ゲームが待っています。やり方は簡単、今から配るカードに名前を書いて頂くだけです。勿論ご自分の名前もね」
「ジャッジは誰がするんだ?」
誰かが聞いた。
「勿論、アレクセイですよ。もしカードの中に本命の名がなかったならば、車はアレクセイのものとなります。ただし、本命の恋人の名を告白したらね」
ホールはまた騒めく。
「アレクセイの相手は女とは限らないぜ」
などという声も聞こえる。
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