プロローグ
「夕べのデトロイト・バックスとニューヨーク・スパークスの試合、お前観に行っただろ?」
アレクセイが『ボックス』ことコマンドのオフィスにやってくるなり、マイケルが言った。
「ああ。何で知ってる?」
誰にも言ってない筈なのに。
「ネットや新聞にドアップだったぜ。横には人気女優侍らせやがって」
振り返りもしないでケンが声を挟む。
くっそ、気づかなかった。
アレクセイは眉を顰める。
「誰が侍らせるか、んなもん。夕べのは、いつかパーティで会ったプレイヤーのピート・サキックに招待されたんだよ」
「きゃあ、ウソ! あの去年ハートトロフィーをもらった、あのサキック?!」
椅子ごと話に割り込んだミレイユの声は上擦っている。
「ずるぅい! アレクセイってば」
「何だよ、ミレイユ、NHLのファンだったのか?」
怪訝そうな顔でマイケルが問う。
「そー! もう、私のサキック!」
ミレイユはすっかり夢見る乙女に変身している。
「じゃあ、今度また招待されたら、チケットまわそうか?」
「きゃあ、アレクセイ! 愛してるわっ!」
興奮のあまりミレイユはアレクセイに抱きついた。
マイケルの爆発しそうな視線を感じて、アレクセイはさりげなくミレイユを離す。
「OK! 君のハニーの分とちゃんと2枚、用意してもらうからね」
アレクセイはあちこちに立ちそうな角を懸命に取り繕おうと言葉を選んだ。
「アレクセイ、Dr.ヘンダーソンにデータを送ってください」
まもなく抑揚のない声でボスの司令が下る。
「Copy That!」
アレクセイはいつになく従順に命令に従う。
ここでまたボスを怒らせて、つむじを曲げられた日には、せっかくの苦労が水の泡……
ガタン、とボスが立ち上がるのに、思わずビクン、とアレクセイは肩が反応する。
横目で見やると、ボスが歩いてきた。
「局長室にいます。すぐ戻ります」
その声にほっと息をついたアレクセイのデスクを通りしな、
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