春の夢10

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 ここのところずっとアレクセイはロジァとは仕事以外で会ってはいなかった。
 数日前、ふざけて局内でロジァの耳元に囁いた。
「しばらく誘ってないし、身体がなまってるだろ?」
 局内ではポーカーフェイスを装っているロジァも、時々アレクセイにだけは地で応対する。
「俺は忙しいんだよ! てめぇみてーな色キチにかまってる暇はねーんだ!」
 声は押さえているが、相変わらず表面からは想像がつかないこの切り返しに、アレクセイはやはり、と思う。
 俺が余計なお節介をやかなくても、ロジァにはロジァの世界があるのだ、と。
 ロジァから連絡してきたことなど一度もない。
 いつもアレクセイの方からだ。
 少しはリコの死からも立直っただろうし、自分がいなくても、やはり大事な仲間のポールや他の連中と楽しくやっているのだろうし。
 クスリだけはやるなとアレクセイは釘をさした。
 無論ロジァはバカではないが、ポールも彼を心配していた。
 リコは生前本当はクスリが嫌いだったのだとポールもロジァにしょっちゅう言っている。
 そのリコがクスリに手を出したくなるほど、あの時はいろいろきつかったのだろうと。
 リコが、どうしようもなく冷えきっているロジァの心を思い、アレクセイにロジァを託そうとしたように、ロジァの魂が一番住みやすい場所に置いてやるのがいいのだ。
 それが俺でないとしても。
 そう考えてから、アレクセイは少し胸が痛くなった。
 
 

 

 
「久しぶりにボスのお出ましか」
 看板も壊れかけた、バー『ヘル・ストリート』の階段を降りていくと、ポールが彼を見付けてニヤニヤしながら声をかけた。
 ロジァは返事もせずに、黙ってカウンターに座った。
 ポールはバドワイザーの瓶を彼の目の前に置き、その横に座った。
「今夜はあのイケメンとは一緒じゃねぇのか?」
 からかうようにポールは言った。
「ウッゼえんだよ、黙ってろ!」
 ロジァはビールの瓶を掴むと、一気に半分以上空けた。
「ご機嫌ななめだな、もう、振られたのか?」
 ロジァはポールをジロリと睨む。
「おっと、こえー、こえー…」
 ポールは笑いながらロジァの傍を離れた。


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