春の夢16

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 ケンはアレクセイを睨み付けた。
「おいおい、そりゃ誤解だ。俺は滅多に自分からは誘わないんだぜ」
 ケンはそんなアレクセイの言葉を無視するように、ポツリと言う。
「ミレイユとマイケル、またもめてたな。うまくいってないのかな」
「話をそらしやがって」
「あいつらのは真剣な恋愛問題なんだぜ」
「俺だと何で真剣じゃないんだ?」
 そう言われるとケンも言葉につまる。
「そんなことは言ってないが…そう見えないだけだ」
「言ってるのと同じじゃないか。聞くけど、お前、相手が男だったら、真面目な恋愛なんかできないか?」
 ケンはややあってから口を開いた。
「いや……そんなことは思わないよ。少なくとも真面目な恋愛感情は存在すると思うよ。昔さ……」
 ケンはそこで口を噤む。
「何だよ、言いかけて。昔、どうしたんだよ」
 アレクセイはまた黙ってしまったケンを促した。
「昔ったって、コマンドに入る二年前だ、ウイーンに留学した。W大の数学のマイヤー教授のとこに下宿してて、教授もよくしてくれたし、息子のウォルフとは随分仲良くなって、いつも俺の部屋にきてた。あの頃ウォルフは十一才くらいで、スキーがうまかった。俺がニューヨークに帰る時、絶対会いにいくからって泣いて、可愛いガキだった」
 アレクセイは黙ってケンの話を聞いていた。
「それから二度ウイーンに行った。ウォルフは会うたびでかくなって、去年ウイーンに行った時は、彼は次のオリンピックのメンバー候補に入っていて、相当期待されているようだった。調度シーズン中でウォルフは練習に行ってて会えないだろうと思った。それが慌てて戻ってきてくれて、久しぶりに話している時だった。彼は俺に好きだって言ったんだ。恋愛対象として付き合いたいって。俺はびっくりした。ところがそれを彼の母親が聞いていて教授に伝えたらしく、教授が飛んできた。『君たちはそういう関係なのか?』ってすごい顔で聞くんだ。ウォルフは本気だって言った。しかし俺は何とも返答のしようがなくて、そのまま逃げ帰ってきちまった」
 ケンは大きく溜息をついた。

 


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