「…た、だ。……彼女とは、たぶん、お互いが淋しいってだけだったんじゃないかと思う。ここんとこは強調しとくが、決して遊びじゃなかった。俺も彼女も」
「要するに、旦那と別れたばかりで夜が淋しい女に可愛がられたわけか。お前ならわかるよペットみたく」
「そんな…」
アレクセイの言い方は面白くはないものの、ケンは戸惑いを隠せない。
「俺もな、十八の時、有閑マダムに夢中になったことがある」
「シャトーブリアン夫人だろ? 知ってるよ。お前の華やかな恋愛遍歴なら。ゴシップ誌で読んだ。そのあと何人並んでたか、覚えてもいやしない」
「あのな…もうちっと本人の言うことを信じてくれよ。俺は、俺にも真剣な恋愛は二つだけなんだ」
「へえ、真剣じゃない恋愛はいくつあるんだ?」
ケンはグラスを飲み干しながら笑う。
アレクセイは、空になったケンのグラスにウォッカを傾ける。
「真面目に聞いてくれよ。シャトーブリアン夫人とは、始めは優雅なラブアフェアのつもりが、俺は真剣になったんだ。ところが、夫人の方は俺が真剣になったと知ると、あなたの将来を傷つけたくないの、とか言って結局旦那とドイツに行っちまって、振られたのさ。本当言うと、俺はしばらく立直れなかったんだぜ」
「わかったよ、認めるよ。お前が振られるなんてな」
頷きながらケンはニヤニヤと笑う。
「そのあと、今度は男だった。パリで……さすがにあの人に去られた時は、しばらく再起不能だった。みかねてスターリングが迎えにきてくれたってわけ」
ケンは、またひとつため息をついた。
「俺には…そこまで真剣な恋愛経験なんてないな。キャロルとは慰め合っているだけだと思うし」
「問題は経験じゃないだろ……経験てのは終わったからそういうんだ」
「なるほど…」
アレクセイは自分のグラスにウォッカを注ぎながら、苦笑いする。
「けど、実際よく分からなくなってきたんだ…最近は…」
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