ACT 3
ハンスがまたニューヨークに現われた。
今度は何と、アレクセイの設計したエンジンのテストをするという。
アレクセイはまさか本当に、しかもこれほど早く造り上げるとは思っていなかった。
ハンスはアレクセイの休日を利用して、約束どおり彼にテスト走行をさせようと言う。
ハンスの自家用機でシカゴ近辺のG社工場敷地内にある専用サーキットに二人で飛んだ。
「うまくなっただろう? 飛行機の操縦も」
「まあな」
「その内お前にも教えてやるよ」
相変わらず陽気なハンスは、近ごろはもっぱら車よりも飛行機であちこち飛び回るほうが多いという。
テスト走行は成功といえた。
しかもあり得ないパワーに、チーム関係者は度胆を抜かれた。
しかし、ヘルメットをとったアレクセイは言った。
「レースは結局、ドライバー次第さ。パワーがあっても勝てるとは限らない」
ハンスはそう言うアレクセイに、次のレースに参加しないかと誘った。
アレクセイは、「考えさせてくれ」と言い、さらに続けた。
「しかし、俺が乗るんじゃなけりゃ、あのエンジンは使うのはやめた方がいいかもな」
「何でだ? 成功したぜ」
「エンジンが爆発する危険性が、例え一%でもあれば、命取りだ。次の走行でドカン! といくか知れないんだぜ。他の人間を俺のエンジンの犠牲にはしたくない。飛ばすんなら俺の首にしてくれ」
ハンスはフッと溜め息をつく。
「よくそんなきれいな顔して平気で恐ろしいことを言うな。だいたい、ちょっと見が女かと思うようなお前が、よくマシンなんか動かすぜ」
「訴えられるぞ、その言い方は。女性の戦闘機パイロットだっているんだぜ? 実は俺も空軍で戦闘機の訓練を受けたこともあるんだ」
笑うアレクセイに、ハンスはしばし唸る。
「…ウム、わかったよ。とにかく、あれを使うか使わないかは別として、考えといてくれ」
ハンスに念を押されて別れたその数日後だった。
アレクセイは局長に呼ばれた。
「プライベートに立ち入るつもりはないが」
アレクセイはドキリとした。
ロジァとのことをいよいよ嗅ぎ付けられたのかと。
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