しかし、局長の話は別の件だった。
「F1などに参戦するのは、控えた方がよくないかね。君はレーサーであるより前にまず、ここ宇宙局の科学者だ。ただでさえ危険がつきまとうかも知れないコマンドのメンバーでもある。必要以上の危険性を背負込むのはどうかね?」
昨年秋、天才レーサーとうたわれたサム・アレンがレース中事故死したニュースは世界中を駆け巡った。
ファンならずともショックを受けたものは少なくなかったはずだ。
その記憶はまだ生々しい。
少なからず恩を受けているスターリングの言葉は、アレクセイにとって説得力があった。
「国家的なというだけではない、地球規模の意味を持つプロジェクトを抱えている宇宙局としては、そういった重要なプロジェクトのポジションに君を置くことを検討しなければならなくなる。よく考えてみてくれ」
局長室を出ると、アレクセイは大きく息をついた。
その話をケンにすると、ケンはゲラゲラ笑った。
「みろよ、後ろめたいことがあると、余計な心配するじゃないか」
「ひとごとだと思いやがって…しかし…どうするかな…再三、ハンスからは誘われているんだが…」
「そんなものは簡単だろ? お前が科学者としてここに残るか、レーサーとして出て行くか、二つに一つじゃないか」
こともなげにケンは言う。
「きさま、やっぱりひとごとだと思ってんな?」
「ハハ…ひとごとだぜ?」
「このやろー…」
アレクセイはケンの首を軽く絞める。
「離せよ。大体だ、どっちも取ろうなんざ、ムシがよすぎるんだよ」
「そう言うお前は弁護士っていう肩書きも持ってるじゃないか」
「弁護士とレーサーじゃ、全く時限が違う」
ケンはきっぱりと言いきった。
「レーサーよりずっとコマンドの方が危険度が大きいぜ、きっと。局長の言うのは、要するに、どうせ死ぬんなら、コマンドで殉死しろとこういうことじゃないか?」
ニヤニヤしながらそう言うケンをアレクセイは軽く睨む。
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