ごめんなさいとミレイユはちょっと舌を出した。
「やっとお前らしくなってきたな。泣き顔なんか似合わないぜ」
「失礼ね。私だって泣くことくらいあるわよ」
ミレイユは今度は小声になって続けた。
「でもあなたなら、男でも違和感ないって。あなたの女性の噂は当人が出て来たりして、いやって程聞いてるけど、男性関係って今までにもあり?」
「あるよ」
アレクセイはきっぱり言った。
「やっぱり。ほら、男性の場合、あなたに夢中になる人もいるらしいっては聞くけど、誰々がって具体的には上げてないでしょ? ね、どんな人? ちらっと耳にしたんだけど、あのキリー・バーモントがあなたに言い寄ってるってホント?」
我が意を得たりという顔で、ミレイユはさらに突っ込む。
「知ってるじゃないか?」
「え…本当なの? 超カッコイイ、ハリウッドの大スターじゃないの。そっか…でもあなたなら、誰でも許すわよ!……ステキじゃない!!」
「カッコイイ……ね…あいつが…?」
ロジァが聞いたら大笑いするだろう。
バラの花束を抱え、芝居がかった台詞を携えてキリーが部屋まで押し掛けてきた時、ちょうどそこにロジァが居合わせたのだ。
「どうして? 彼の両親が反対なの?」
アレクセイはミレイユの顔を覗き込むと、眉を顰め、
「君には悪いけど、彼は趣味じゃない!」
と言い切った。
「え、何故…?! あんなカッコイイのに」
「カッコイイなんてのはマイケルに言ってやれって。奴の方がずっとカッコイイ」
学生時代ボクシングをやっていたというマイケルは、ただでかいだけの男ではない、引き締まった、実に理想的な体躯の持ち主でもある。
「ちょっと…アレクセイ、まさか、相手ってマイケルじゃないでしょうね?!」
「あのな…」
アレクセイは呆れてミレイユに向き直る。
「マイケルを取らないでね! あなたが相手じゃ勝ち目はないもの」
「何言ってるんだよ。酔ってるな」
ふと、アレクセイは、カテリーナは無言でミレイユと同じことを言っているような気がした。
ロジァを取らないで…と。
店を出てからタクシーを拾い、アレクセイはミレイユを彼女の部屋まで送った。
ミレイユはコーヒーくらい飲んでいってと、アレクセイを中に入れた。
彼女のいれたコーヒーは美味かった。
アレクセイは、俺なんかを部屋に入れて、マイケルが怒るんじゃないのか? と言ったが、ミレイユは、平気よ、別にやましいことがあるわけじゃないもの、と彼を送り出した。
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