「俺がやったって言ってくる! 俺のせいで…ボスが辞めるこたない。実際、この一年、うまくやってたじゃないか」
マイケルは拳を握り締めたまま出て行こうとする。
「待てっての!!」
ケンはマイケルの腕を掴み直す。
「頭冷やせって、ロジァが言っただろ?」
アレクセイは苦々しい顔で座っていた。
ミレイユは半泣き状態である。
「だから、もうちっと冷静になれよ」
ケンが諭すようにマイケルに言った。
「全く、いい大人がオフィスに私情持ち込んで、大喧嘩なんておハナシにもなりゃしない」
「ごめんなさい…」
ミレイユがしおらしく謝った。
「決着はアフターファイブに……と言いたいとこだけど、こうなったからには俺も聞きたいね。一体どうなってるんだ? アレクセイ、事実か?」
ケンの口調は静かだが、しかしトゲを含んでいた。
それに答えたのはミレイユだ。
「デタラメよ! あたしはアレクセイと飲みに行っただけ。その後、送ってもらったから、コーヒーを飲んでいってって行ったのよ。ずっとバーにいたのよ。そんなに疑うんなら、バーの人に聞けばいいわ。アレクセイのことなら、皆が覚えてるわよ」
アレクセイはシレッとした表情のまま、口を噤んでいる。
「すまん…アレクセイ。俺、つい頭に血がのぼって…とにかく俺が悪い。殴ってもいいぞ」
ようやく少し冷静になったマイケルは必死でアレクセイに謝った。
「謝るこたないね。騒ぎを大きくしたのはアレクセイ、お前だ。何で、否定せずにあんな嘘を言った?」
「裁判官はケンに変わったのか?」
アレクセイは皮肉った。
「ふざけるなよ!」
「俺ならやりかねない、お前もそう思ったんだろ?」
自嘲気味な科白である。
「お前、何ヒネくれてんだよ?」
そこへ、ロジァが戻ってきた。
ムスッとした表情を隠せないでいた。
「どうなりました?」
ケンが聞いた。
「保留です。仕事に戻って下さい」
ロジァはそれだけ言うと自分のデスクに戻った。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます