アレクセイはケンの説明に眉を動かしたが、口は開かなかった。
「英才教育のプロジェクトは今ないわよね?」
ミレイユが聞いた。
「今はない。前の局長がそういうことやってたんだが、局内で爆破事件が何件かあったらしいし、子供を危険にさらすわけにいかないってことで、スターリングは廃止した」
「なるほど」
マイケルが頷いた。
「スターリングはとにかく、そんなロジァをここに引き戻すために、ベッカーに指導させたんだろ」
ケンが付け加えた。
ベッカーは元空軍少佐で、現在は局長付き局員である。
「きっとコンピューターもロジァが『ブラック』のボスだってこと知ってたんだぜ。それでコマンドのボスだ」
それまで黙っていたアレクセイが茶化す。
が、切れた口の中が痛むので思わず顔を顰めた。
途端にマイケルは本当にすまなそうな顔になる。
「い…痛むのか? 本当にすまん!! お前の顔を殴るなんて、俺は世界中のお前のファンや恋人から恨まれるぜ!! 下手すると殺されかねないな……」
「そうよ!! アレクセイを殴るなんて、前代未聞よ!」
またミレイユが咎めるような口調でそう言った。
「言っとくが、カッとなったのは事実だが、アレクセイを目の前にしたら、勝手に拳が鈍った。お前の顔はちょっとまともに殴れない」
マイケルが弁解する。
「そんなこと言ってるから、こいつが助長するんじゃないか! 何しても許されるってわけじゃないんだぞ」
ケンの言葉は容赦ない。
「美しい人の特権よね、ケンったら、羨ましいんじゃないの? でも、ロジァが言ったみたいに、アレクセイ、マイケルのパンチを避けたの?」
ミレイユは気になっていたことを聞いた。
「むかし人妻に手を出して以来、逃げるのは慣れてるんだ」
アレクセイは苦笑いする。
「しかし、やっぱお前のパンチは聞いたぜ。もう一回、医務室行ってくる」
そう言ってアレクセイが立ち去った頃、マイケルがポツリと言った。
「あいつ、何となくヘンじゃないか? 最近」
それに対しては、あとの二人は何も答えず、ただため息をついた。
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