「相談? 俺に? にしたって、オフィスで言やあいいだろ? 何でこんなとこ、来るんだよ!」
「ちょっと緊急なんだ」
「…わかったよ。とにかく出よう」
ケンはロジァを自分の車に促した。
「俺の家に来る?」
ロジァは構わないと答えた。
「君のバイクはどうしよう?」
「あそこに置いときゃいいさ」
郊外にある広大な敷地に建つ瀟洒な屋敷に、ケンは住んでいた。
スターリングの家からはさほど遠くはない。
家の中に入ると、ジョーが威勢よく尻尾を振りながら二人を出迎えた。
ロジァはいきなり飛び付かれ、顔をベロベロ嘗められながら、その大きな身体を撫でる。
「すまない、ちゃんと訓練してなくて。ひどい甘えん坊でね、こら、ジョー、来い!」
ケンが呼んだ。
「コーヒーでいいかな? どうぞ、その辺に座って」
ロジァがソファに座ると、ジョーもその後に続いて、その横に陣取った。
ハイスクールの校長をしていたケンの父親の顔は、ロジァも知っていた。
まだロジァが十歳になるかならない頃だったが、徒党を組んでバイクのエンジンを吹かしているポールたちとつるんでいるところを厳しい顔で睨み付けていたことがあった。
家も近くであるし、ひょっとしたら、ケンはロジァのことも知っているのかもとは思っていた。
「最近、滅多に客なんか来ないからな、散らかしてるけど」
やがてケンはコーヒーの入ったマグカップを二つ持ってきた。
「そうそう、こないだアレクセイが来たっけ……」
ケンは何気なく、ロジァを見た。
「へえ…」
ロジァはそう関心もなさそうに、部屋を見回した。
「一人で住んでるんだ?」
「ああ。親父の残してくれた家だから、大事にしようとは思うけど、一人では広いな。ロジァのとこは、三人だっけ?」
「親父は殆ど帰らねーからな。俺とティムだけだ」
ロジァは熱いコーヒーを啜る。
何となくこの家にはとっくに忘れてしまったような、穏やかな空気があった。
いつのまにか膝に顎を乗っけているジョーの首の辺りをロジァはさすってやる。
するとジョーは太い前脚まで乗っけてきた。
「えらく馴々しいな、ジョーのやつ」
ケンは笑いながら、ロジァに聞いた。
「犬、好きなんだ?」
「ああ、俺んちにもどうしようもないのがいて、やっぱり、すげー甘えん坊さ。ゾロってんだ」
そう言ってロジァは笑った。
ケンははっとする。
研究所では滅多に見られない笑顔だ。
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