春の夢38

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 笑うととても可愛いじゃないかとケンは思うが、口には出さない。
「ところで、相談ってのは、実はアレクセイのことなんだ」
 ケンは途端にロジァの表情が強ばるの見逃さなかった。
「…アレクセイ? …あいつがどうかしたのか?」
 言葉が固くなっているのをごまかすために、ケンの視線を外し、ロジァはまたカップに唇をつける。
「君、ネットも見てないだろ? 今日、COTAの予選に奴が出てた」
「へえ?」
 COTAはテキサス州にあるサーキットである。
「問題は、以前、アレクセイが言ったんだが、局長にさ、レースに出ることを牽制されたって」
「何で?」
「ただでさえ危険がつきまとう仕事の上に、わざわざレースなんかに出る奴には、重要なプロジェックトは任せられない、ってことらしい」
「局長の言うことなんか無視すりゃいいんだ」
 ロジァは吐き捨てるように言う。
「君と我々とはやはり立場が違う。君が親父さんに反抗して、『ブラック』のボスなんかやってるようなわけにはいかない」
「あんなやつ、親父だと思ったこたねーよ」
 ロジァは吐き捨てるように言う。
「俺たちには完全に上司だ。その命令を無視すればどういうことになるか、アレクセイだってわかっているはずなんだ。まあな、局長の危惧も分からないではない。アレクセイは、彼の亡命を助けた、大事な科学者だ。プライベートの浮名は別として、Cエリアのプロジェクトにも参加している上、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)との共同プロジェクトにも参加することになっているらしい。さらに、全く違う分野でも心臓外科では第一人者に入るんじゃないか? そんな彼を心配するのは当然といえば当然だろ?」
 諭すようにケンは言いながら、ロジァの表情を窺った。
「下手するとコマンドにいる方がもっと危険度が高いんじゃねーの? だったら、さっさとコマンドなんかやめさせりゃいいんだ」
「本当にそう思う?」
 ケンはロジァの顔を覗き込むようにして聞く。


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