春の夢39

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「え…」
 ロジァは思わず後に身体を引いた。
 ケンは続けた。
「コマンドにとっても彼はやはり必要な人材だと思うけどね」
「だから、どうしろっての? 局長に俺から、彼がレースに出たからってやめさせないでくれって頼めって?」
「いやあ、そりゃ助かるよ。そうしてくれれば」
「分かった。ついでに、コマンドのボスはやっぱりアレクセイが最適だからって言えばいんだろ?」
 ロジァは言いながら立ち上がる。
「そうすりゃ、俺はめでたくコマンドを辞められる」
 ケンは少し慌てた。
「ちょっと待った、誰もそんなことは言ってない。この一年、コマンドはうまくやってきたじゃないか。君はそんなに、嫌なのか? コマンドの仕事が。せっかく少しずつ打ち解けてくれるようになったと思ったのに」
 ロジァは口を歪めて笑う。
「あんた、知ってっだろ? 俺はゴロツキのボスなんだぜ」
「俺からすれば、君はコマンドでも完璧なボスだったけどね。何が問題だ? やっぱりアレクセイか?」
 ロジァの肩が少しばかり揺れるのにケンは気づいた。
 だが、ケンは二人の関係を知っていることはおくびにも出さない。
「まあな、あいつはああいう存在だから、そのうちあんな事件が起きないとも限らないとは思ってた。きっと、ミレイユかカテリーナか、或いはどちらかともとどうかなるとか、でなくても、例えば局内の女性同士でせめぎあいになるとか…あれだけの男だからな。ないほうがおかしいかも知れない」
「好色漢のかたまりなんだ! あんな野郎!! ぶん殴られて当然だ。勝手にレースなんかに出てるんだろ? クラッシュでもすりゃ、いい気味だ!」
 ケンはロジァの激しい言い方に驚き、その言葉の裏側を探ろうとする。
「そういうなよ、ロジァ。実際のとこ、ミレイユの件は無罪だったじゃないか」
 ロジァは思わずケンを見つめた。
「無罪って?」
「ああ、俺たち四人、別に君とカテリーナを除者にするわけじゃないけどな、一応大人四人はこれでもお互いに親睦を深めてきたんだ、この一年。ミレイユとアレクセイもいい友人同士さ。あれはマイケルとミレイユが、最近ちょっとこじれたから、いらついてついってやつさ。マイケルの思い込みだったんだ。マイケルのやつ随分、気にしてたよ。第一、ミレイユはマイケルに心底惚れてるし、あれから二人、お互いの気持ちを再確認したみたいだ。マイケルのやつも場所も顧みず、やってくれるよな。羨ましい限りだ」
 そうなのか、とロジァは思う。
 しかし、だからといって、アレクセイが好色漢なのは変わりはない。

 


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