ミレイユでなかっただけだ。
「あいつ俺には必死で弁解してたけどな。誰かれ構わず、相手にしてるわけじゃないって。俺も、マスコミに踊らされて、結構色眼鏡で見てるとこあるからな」
ケンがそう言うのに対して、ロジァは苦笑する。
「同僚には、いい顔してえんだろ? けどよ、局長のクソジジイが、俺の言うことなんか聞くかわからねーぜ。まあ、俺が辞めるか、奴が辞めるか、どっちがいいかってとこだな。そうだ、いい方法があるぜ。こんだ、俺が奴をぶん殴るんだよ。そうすりゃ、レースだなんだなんてこた忘れて、俺を辞めさせるかもな」
「ロジァ!!」
乾いて冷えきったロジァの目。
どうしてそんな目をするんだ?
ケンは思った。
ロジァは出て行った。
ジョーがロジァがドアを閉めるまでを見送って尻尾を振っていた。
ケンは溜息をつき、ベッドに寝転がって、天井を見上げた。
「なんて目をするんだろ…」
何者も寄せ付けない、獣の目だ、と彼は思った。
それはあの鉄面皮の司令官と同一だという気がした。
一年、本当に少しずつ、彼が打ち解けてくれてきたように思っていたのに。
「アレクセイか…鍵は…やっぱ…それで、俺のせいで、ロジァに途方も無い不信感を与えたとか?」
ケンはベッドに起き上がり、呟いた。
いきなり、とんでもない罪を犯した気分になった。
その時、ポケットの携帯が鳴った。
「やあ、ケン? ハンスだ。覚えてるか?」
その声を聞いてケンはちょっと驚いた。
G社の御曹司である。
「もの覚えはいいんだ。元気そうだね、相変わらず。そういえば、予選、アレクセイが出てたんでびっくりしてるんだ」
「君にも話してなかったのか? そうなんだ。どうだい、明日、こっちに来ないか? アレクセイが優勝するところ、君もみたいだろ?」
「すごい意気込みだね。そりゃ、見たいけど」
「よし、じゃ、明日、迎えをやるから」
ハンスはとっとと先を決めていく。
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