「Dr.リワーノフ、何故君がここに?」
ベッカーは厳しい目つきで尋ねた。
「友人の葬式なんです。ここはそっとしておいてくださいませんか?」
するとベッカーの後にいた部下のひとりが言いかけた。
「しかし彼はもしかしてロシアの……」
ベッカーはそれを制した。
「よろしい、局長にはそう報告する。但し、見張りはひとり付けておく」
そう言い残して引き上げて行った。
例え今は宇宙局にいるとはいえ、ベッカーはエッシャーが空軍から連れてきた、有能な軍人だ。
そのベッカーが何故ああまで必死になってロジァを追い回していたのか。
その答えは、スターリングの息子というだけではない、ロジァが彼らをさえ動かすほどの何物か、だからだ。
あの時、ロジァは身体中で叫んでいた。
だから何だというんだ?!
リコは死んだ。
―――事実はひとつだけだ。
―――それがいつか……だ
ハッと我に返ったアレクセイは心の中で呟いた。
自分の計算に間違いはない。
必ずそれは来る。
しかし、その時間的な誤差はあるに違いない。
果たしてうまくゴールするまで、エンジンが持ちこたえられるか、それとも……
何のためにそんな自虐的な賭けをする気になったのか…。
もはや長官の叱責は覚悟している。
或いはその時にはクビがつながっているかどうかも分からない。
唸りを上げて目の前を走り去るレースカーを見送ってから、ケンは気になっていることをハンスに問い正した。
「ああ、あのエンジンはパワーがあるが、下手をするとリミッターが聞かなくなってぶっ壊れるから、使わない方がいい、てなことをアレクセイは言ってたんだ。それが、ずっとパワーフル回転で走り続けている。あいつがデタラメを言ったとは思えないし、ちょっと異常なくらいのパワーなんで、薄気味悪くなってな…」
「何だよ、どういうこったよ?!」
ハンスの話を耳にしたロジァが割り込んできた。
ハンスは始めてこの少年をまともに見た。
「ああ、あのマシンのエンジン、アレクセイが退屈しのぎに考えたエンジンだそうだ」
ケンが答える。
「アレクセイが?」
ハンスはじっとサーキットを睨み付ける緑の目に気付いた。
「アレクセイのファンなのか? 坊や」
ロジァはカチンとくる。
「誰がだ!! 冗談じゃねーや」
「ティーンエージャーの同僚は彼だよ、ハンス」
ケンが言うと、ハンスはほう、と笑う。
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