「すると、宇宙局にいるわけか? 君も科学者? ひょっとして天才くんなのかな?」
その言葉はロジァの神経を逆撫でした。
「二度と言うな、クソヤロー!」
ちょっとドスを効かせたこの科白にハンスは目を丸くする。
そして、ケンに肩をすくめて見せた。
ロジァはハンスを無視して、サーキットに顔を向けている。
何となく嫌な予感がした。
二十周を数えても、まだアレクセイはパワー全開でトップを保っていた。
ところが二十四週目、ピットインしたアレクセイは、ピットの中に緑色の二つの目を捕らえた。
ピットアウト、アレクセイは心搏数が急に上がり始めたのを感じた。
何故、ロジァがここに?
眉を顰める。
頭痛がしてきた。
見誤りではない。
パワーが一気に下降する。
W.F.チームのロズベルグが距離を縮めてきた。
ロジァを見た瞬間、それまでのひらきなおりの境地から現実に引き戻された。
冷汗が滴り落ちる。
さっき見たロジァの目の光が瞼の奥に焼き付いている。
やっぱり!
やっぱり、ここでロジァを放り出すわけにはいかない!
アレクセイは思った。
しかしそれは言葉を変えれば、放り出したくない、ということではないのか?
アレクセイは自問する。
途端、目の前で周遅れのマシンがスピン、アレクセイは避けようとして慌ててこちらもスピンを免れなかった。
その横を、ぴったり後ろについていたロズベルグがアレクセイを抜いていく。
さらに後方のジョーンズ、その後から来た一台にも抜かれる。
幸いアレクセイはすぐマシンを立て直し、取り敢えず今度は追う形となった。
ピットから、ハンスは急にペースダウンしたアレクセイを心配し、呼び掛けたが、アレクセイは答えず、ひたすら前方のマシンを追う。
冷静ではあるが、内心は穏やかではない。
前を見てはいるが、彼の意識は既にサーキットを離れていた。
ロジァとの一年が彼の脳裏を過ぎる。
やっぱりあの突き詰めた目から逃れることはできない。
あの目は何かを言っている。
だが、何を言っているんだろう?
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