四十三週目だった。
ロズベルグがスピンした。
そこに、ジョーンズが激突、続けてその後ろのマシンもスピンしてリタイヤ。
アレクセイは、はっとして、パワーを上げる。
とにかく、早くゴールしよう、それだけの思いで、彼は結局そのまま逃げ切った。
チェッカーフラッグが振られた。
その歓声の中でアレクセイのマシンは二百メートル程進んだ。
と、突如マシンが火を吹き、あっという間に炎に包まれた。
歓声がどよめきに代わる。
ロジァは思わず飛び出した。
「アレクセイ!!」
ケンもハンスも後に続く。
クルーによってすぐに火は消し止められた。
ガソリンの燃える強烈な臭いが煙と一緒に広がる。
ケンはその煙の中にまで飛び込もうとしたロジァの腕を必死で掴んだ。
一つの影がその中から飛び出した。
観衆のどよめきは溜息に変わった。
ヘルメットを取ると、長いプラチナブロンドが陽に映えてさらりと肩に落ちた。
溜息は再び歓声に変わり、ハンスは駆け寄ってアレクセイを抱き締めた。
ハンスはもとより、おそらく初めてのGPチャンピオンシップを勝ち得たアレクセイよりも、チームがこの勝利に酔った。
マシンは大破し、エンジンはアレクセイの予想通り燃えつきたにせよ。
しかしその夜、ホテルのホールで行われた祝賀パーティで、アレクセイはハンスに言った。
「俺はやっぱり、本物のレーサーにはなれないな」
「何言ってる! 優勝したんだぞ」
ハンスはアレクセイが冗談で言っているのだと思った。
「タナボタ優勝ってやつだろ?」
「タナボタだろうが、なんだろうが優勝は優勝だ」
上機嫌のハンスには悪いが、とアレクセイは思う。
きっとこれが最初で最後の勝利だな。
そこにケンが戻ってきた。
「いたか?」
アレクセイは聞いた。
「なんと、Mr.ゲミンゲンが、ああ、俺達をヘリで運んでくれた人だが、いきなり、帰るからヘリを出せと言われて送り届けたんだそうだ。あのすぐあと」
アレクセイが煙の中から出てきてホッとしている間に、ロジァは消えていた。
ケンは慌てて探し回ったが、どこにもいない。
アレクセイはきっと帰ったのかもしれない、と言う。
やがて、ケンがゲミンゲンの姿をようやく見つけて聞いてみると、確かにアレクセイの言うとおり、今戻ってきたところだと言った。
「はい、レースが終わってすぐに」
ゲミンゲンは言った。
「おっさん、帰るぜ。とっととヘリ出しな、とそう………」
ゲミンゲンがロジァの口調そのままに話したので、アレクセイもケンも大笑いした。
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