ACT 5
その日はボスの休日だった。
ロジァがいないと、最近は必然的に話題は彼のことになる。
ミレイユとマイケルは、ここのところ、ロジァを持ち上げる。
ケンも一緒になり、私語は謹んでください、という声がない限り、時々笑い声が響く。
「本当は、テレくさいのよ、彼は」
ミレイユが言う。
「ちょっとヒネくれてるだけよ」
「しかし、度胸は据わってるな。しかも、俺のパンチをアレクセイが咄嗟に避けたってのを見抜いたあたり、かなりケンカ慣れしてるぜ」
マイケルが感心したように言う。
「な、アレクセイ、そう思うだろ? お前も」
「あ? …ああ、そうだな」
アレクセイは曖昧に返事をした。
「どうした、レース疲れか? それともそのせいで、夜が忙しいとか?」
マイケルがからかうが、アレクセイは乗ってこない。
マイケルは目で、ミレイユやケンに、あいつはおかしい、と訴えながら、首をすくめてみせた。
カテリーナはそんなアレクセイをチラッと見やり、また仕事に向かった。
カテリーナはカテリーナで、最近、アレクセイとぎくしゃくしてしまうのをどうしようもなかった。
はじめはまさかと思った。
アレクセイがロジァを連れ回しているのは知っていた。
ティムにも聞いた。
だが、アレクセイがロジァを自分のアパートメントに連れていくのを自分の目で見た時はショックだった。
自分では駄目だと思っていた。
けれど、悔しくて泣いた。
アレクセイにはそんなカテリーナの言葉が聞こえるような気がしていた。
それを考えると、彼女を傷つけてまで? とは思うのだが。
夕方近い時間だった。
一本の電話がボックスに入った。
外からボックスへの緊急ダイレクト・ラインである。
コール音に皆が一瞬、はっと息を飲んだ。
緊急ラインを知る者は少ないはずだった。
カテリーナがそれに応答した。
ロジァかと思ったからだが相手は違っていた。
「ティム、一体、どうしたの? 何か、あったの?」
カテリーナの緊張した声に、アレクセイはギクリとする。
「え…アレクセイに? 分かったわ」
カテリーナはアレクセイに通話をまわした。
「何なんだ?」
ケンがカテリーナに聞いたが、彼女は首を横に振るだけだ。
「分からないわ。ティムから…ロジァのことでアレクセイに代われって言うだけで…」
「アレクセイだ、ロジァがどうした?」
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