「あとはギアやブレーキング、タイヤとの折り合いだな」
と、アレクセイは笑いながら画面を変える。
「大まかなところの完成予想図だ。あんたのところのマシンを想定して組み込んでみた。オイルの調合まで一応計算してある」
ハンスは息を呑む。
「すごいな、これをどうする気だ?」
「別にどうするところまで考えてはいないさ。計算上でしかないからな、実際には……」
「造らせてくれよ」
すかさず身を乗り出したハンスは、大手自動車会社の幹部というより、ただの車好きの顔をしていた。
「それはこちらも有り難いが、ただし条件がある」
「いくらでも出す」
「金なんかいらない。ただ、テストは俺にやらせてくれよ。他のドライバーには絶対触らせるな」
「何でだ?」
「下手するとリミッターが効かなくて、エンジンがぶっ壊れる可能性もあるからだ」
そう言って笑うこの美しい科学者に、ハンスは時折底知れぬ恐ろしさを感じるのである。
それからハンスが、どうやらアレクセイの見せた設計図に夢中になっているようだったので、アレクセイはハンスにいきなりキスしてやった。
「ウ……何だ?」
「俺を放って設計図に夢中になっているからさ」
ハンスは笑い、今度はアレクセイを抱き締めてゆっくりキスした。
「ベッドに行こうぜ」
アレクセイの目が怪しい光を帯びている。
「どうしたんだ? お前、急に色情狂になったのか? そりゃ、俺は嬉しいけどな」
二人は戯れ合いながらシーツに潜り込む。
いつになく切なげに求めてくるアレクセイに、口ではジョークを飛ばしながら、ハンスは心の中で問いかける。
もういい加減、ブルースのことは忘れたよな?
設計図なんかより、ずっと前からお前に夢中なんだ。
アレクセイとのラブアフェアのあとでは、いつも天国から地上に逆戻りしたような思いをする。
このまま俺のものになってくれよ
ハンスの家庭環境、仕事、それを考えると、いずれは結婚しなくてはならない。
今時男とだってしようと思えば結婚くらいできるのだが、残念ながら子孫はできない。
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