春の夢9

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 だがそれは、アレクセイに告白して「NO」と言われるのが恐いだけの言い訳だと、ハンスは知っている。
 しかしそれをアレクセイに言ってしまったら、アレクセイという友人すらも失ってしまう気がする、恐いのはそれだ。
 大の男が、まるでガキの心理状態だ。
 ハンスは自嘲する。
 とにかくブルース以来、アレクセイの心を占めている人間はいないはずだと思っていた。
 いないのならこっちのものだ。
 だが、何となく気になる。
 今回のアレクセイは……。
 女も男をも魅了する極上の身体は、蠱惑的にハンスを引き込んでいく。
 互いの肌が発熱し始めると、ハンスは容易く情念の波に飲まれた。

  
 

 行きつけのバーで、アレクセイはケンにもハンスを紹介した。
「しかし、随分若いな、ティーンエージャーまで同僚だとは」
 ハンスの言葉に、ビールを持っていたケンがムッとする。
「確かにティーンエージャーもいるが、誰のことを言ってるんだ?」
 アレクセイは笑いながら聞き返す。
「…ティーンじゃないのか? 彼」
 ハンスが不思議そうに訊ねた。
「アレクセイとは同い歳ですよ」
 眉を顰めるケンに、ハンスは口をあんぐり開けてまじまじとケンを見た。
「これは失礼…」
 ハンスはすぐにケンとも打ち解けた。
 だが、ハンスはこの青年を心の中で観察しながら、そうか、相手が同僚ということもありえるわけだ。
 この可愛い青年が相手ということだってありえる、などと思う。
 いずれにしろ、陽気だけがモットーのハンスは、ちょっと生真面目そうだが、案外明るくきれいなケンが結構気に入った。
 アレクセイがビスクドールの美しさなら、このケンという青年は、いつぞや東京で見た雛人形の怪しげな美しさを持っている。
 ドイツにきた時はぜひ会おう、と言い残し、アレクセイから借りたエンジンのデータを大切そうに持ってハンスはミュンヘンに帰って行った。


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