だがそれは、アレクセイに告白して「NO」と言われるのが恐いだけの言い訳だと、ハンスは知っている。
しかしそれをアレクセイに言ってしまったら、アレクセイという友人すらも失ってしまう気がする、恐いのはそれだ。
大の男が、まるでガキの心理状態だ。
ハンスは自嘲する。
とにかくブルース以来、アレクセイの心を占めている人間はいないはずだと思っていた。
いないのならこっちのものだ。
だが、何となく気になる。
今回のアレクセイは……。
女も男をも魅了する極上の身体は、蠱惑的にハンスを引き込んでいく。
互いの肌が発熱し始めると、ハンスは容易く情念の波に飲まれた。
行きつけのバーで、アレクセイはケンにもハンスを紹介した。
「しかし、随分若いな、ティーンエージャーまで同僚だとは」
ハンスの言葉に、ビールを持っていたケンがムッとする。
「確かにティーンエージャーもいるが、誰のことを言ってるんだ?」
アレクセイは笑いながら聞き返す。
「…ティーンじゃないのか? 彼」
ハンスが不思議そうに訊ねた。
「アレクセイとは同い歳ですよ」
眉を顰めるケンに、ハンスは口をあんぐり開けてまじまじとケンを見た。
「これは失礼…」
ハンスはすぐにケンとも打ち解けた。
だが、ハンスはこの青年を心の中で観察しながら、そうか、相手が同僚ということもありえるわけだ。
この可愛い青年が相手ということだってありえる、などと思う。
いずれにしろ、陽気だけがモットーのハンスは、ちょっと生真面目そうだが、案外明るくきれいなケンが結構気に入った。
アレクセイがビスクドールの美しさなら、このケンという青年は、いつぞや東京で見た雛人形の怪しげな美しさを持っている。
ドイツにきた時はぜひ会おう、と言い残し、アレクセイから借りたエンジンのデータを大切そうに持ってハンスはミュンヘンに帰って行った。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます