純がそれを日本語に訳して話すと、純一や朝子は目に涙を浮かべ、文也も奈美も沈痛な面持ちになった。
「だったら、何ですぐに連絡よこさなかったんだよ!」
あくまでも挑戦的な目つきで純がケンに尋ねた。
「母の携帯は辛うじて無事だったので、あ、ここにありますが、市警が一度連絡先の一つに電話を入れたらしいのですが、すぐに切られたということでそのまま放っておかれたようです。十年前、十七歳の頃、弁護士のブラッドリーから岡本さんと連絡がついて、岡本さんがニューヨークに来られた際、僕を訪ねるように住所を渡したということですが、残念ながら会えませんでした」
「そのことなら俺も覚えてる。そのブラッドリーって弁護士が教えてくれた岡本賢って、でたらめな相手だったって言って、意気消沈して親父のヤツ戻ってきたんだぞ!」
純はそう言ってから、ケンの言葉をまた日本語に訳した。
「しかし、ブラッドリーがでたらめを教えるとは思えないんだけど」
ケンは首を傾げた。
すると、今度は文也がブツブツと当時を思い出して話し始めた。
「おう、そうだった、ガッカリしてよ。これで兄貴の子供にやっと会えるって思ってたのによ。兄貴の消息とかは、そのブラッドリーって弁護士の言うとおりだったんだが、肝心の子供に会うならここに行けって、でっかい大学教えられて、ようやくそこまで行って、弁護士の書いた紙を受付で見せたんだ。そしたらたまたま、日本に留学してたってやつがいて教えてくれたんだが、岡本賢ってのはどっかの研究室で准教授だってよ。それ聞いて、何だよって、甥っ子がそんなオッサンなわけねぇし、俺はガックリきて、飛行機の時間もあったし、そのまんま……」
純はそれをケンに英語で話そうとして、また父親に向き直った。
「おい、まて、親父、ブラッドリーはその大学にいるって言ったのかよ?」
「そう聞いたんだが、別人だったみてぇで」
「みてぇって会ってなかったのかよ?! 何て大学だよ?」
「だから大学のセンセなんかに用はねぇだろ? 確か、H大とかって」
何やら二人が喧嘩腰でやり取りするのを黙って見ていたケンに、純がまた向き直る。
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