東京へ行こう -ハンスとケン- 12

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「十年前、親父はブラッドリーにあんたがH大学にいるって言われて、会いに行ったって言ってるが、あんた、そこにいたのか?」
 ケンは驚いた。
「本当ですか? 十年前、僕はH大の物理学研究室にいました。ブラッドリーから父の家族の岡本さんが会いに来られると聞いて、待っていましたが、会えませんでした」
「准教授って言われたって言ってるぞ」
「その頃、准教授でした」
 一瞬の沈黙ののち、純が大きなため息をついた。
「バカバカしい思い込みだったんだ、親父の」
「どういうことですか?」
「歳だよ、あんたその頃十七歳だったわけだろ? 親父は准教授って聞いて、てっきりオッサンだとあんたじゃないと勝手に思い込んで、会わなかったんだとよ」
 ようやくケンは理解した。
「ああ、飛び級で、大学に行ったのは十歳でしたから、准教授としては若かったですね」
 純は天を仰ぐようにまた大きく息をついてから、みんなに日本語で説明した。
「何てこった……はああああ」
 文也が言いながら肩を落とした。
「何てこったはこっちのセリフだよ! っとにあんたの早とちりときたら!」
 奈美が文也の背中をバンッと叩く。
 しばらくああだこうだと皆が口々に言い合っていたが、その内ケンを不憫がって、朝子がまた涙を押さえ、純一も腕で涙を拭った。
「純也のやつ、まさかニューヨークに行っちまってたなんて、思いもよらなかったんだ」
「あんたが瑠美さんと別れないんなら出てけなんて言ったから」
「だからあいつが純也のやつが……」
 純一はそれだけ言うと感極まって口を噤む。
 ケンが何を言っているのかと純に尋ねると、純はかいつまんで説明した。
「両親は結婚を反対されていたのか?」


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