東京へ行こう -ハンスとケン- 13

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「そうらしい。以前聞いたことがある。じいさんたちは最初瑠美さんを歓迎していたんだが、瑠美さんの実家が猛反対だったらしい。何でも婚約者がいたとか何とか。それで向こうの親がうちに電話で怒鳴り込んだり、人を使って金を積んで別れさせようとしたとかで、じいさん怒っちまって、別れろって言ったらしくて、それで純也伯父さんはうちを飛び出して瑠美さんと暮らすって。でも、てっきり東京のどっかにいるもんだとばっかり思ってたって。じいさんたち、そのことずっと悔やんでて」
 ケンはじっと純の話を聞いていたが、ブラッドリーに言われた話を思い出した。
「いや、もし、反対されなかったとしても、両親はニューヨークに行っていたんじゃないかと思う。当時、父の純也はニューヨークに本社がある企業に就職し、やがて本社に呼ばれたらしい」
「それは聞いて知っていたけど」
 それからはやっと気づいたかのように、ケンにどういう予定なのか、どこに泊まっているのか、今はどういう生活をしているのかと、岡本家の人々は矢継ぎ早に質問攻めにした。
「何やってんの? 勢ぞろいして」
 そこへまた一人の少年が、襖を開けて顔を覗かせた。
 ケンが振り返ると、「わ、兄貴が二人!」と兄貴の純より大柄な少年が喚いて目を丸くした。
「享、ちょっとここに座りなさい。あんたの従兄のケンさんよ」
 奈美が享と呼ばれた少年を傍に呼んだ。
「従兄? あ、ひょっとして死んだ純也伯父さんの? あ、はじめまして。俺、享、今大学一年で、兄貴と違って二流の私大だけど」
 享は、ケンが日本語がわからないと知っても、「へ、ガイジン? ニューヨークに住んでるの? いいな、俺、いっぺん行ってみたかったんだ」と尚も人懐こそうに話しかけてくる。
「ぜひ皆さんもニューヨークにも来てください」
 ケンは三代が一緒に暮らす大家族をあらためて見回した。
もし両親が日本にいたなら、自分もこの家族の一員だったのかもしれない。


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