「いや、そうじゃなくて、実際会えるかどうかわからなかったし、皆さんの好みもわからなかったから、何も土産を用意してこなかったんだ。できればお祖父さんお祖母さん、おじさんおばさん、それに君や享が好きなものとか教えてほしい」
「なーんだ、んな、かたっ苦しいこと考えなくていいんだって。じいさんもばあさんもあんたが来てくれたことだけで喜んでるんだから」
「けど、俺の気持ちの問題だから」
純は、ふーんとちょっと首を傾げる。
「んじゃあ、『杉屋』の豆大福だな」
「スギヤノマメダイフク?」
「初売りで買えばいい。そういや、いつまでいるんだ?」
思い出したように純が尋ねた。
「休暇は一週間もらってる。そうだ、純、母の生まれた家も訪ねたいんだが、どう行けばいいか教えてくれるかな?」
ケンの問いかけに、純は急に難しい顔をして黙り込んだ。
「あんたの気持ちはわからないでもないが、俺はあまりお勧めしない。が、どうしてもって言うなら」
「ああ、父との結婚に母の両親が反対していたとか」
両親の身元が分からなかった理由には、色んな事情が絡まり合っていたこともあったようだ。
そんな事情を抱えながらも、二人きりにもかかわらずニューヨークでの新しい生活に両親が抱いていただろう夢をこともなげに奪った犯人に対してケンはつくづく憤りを覚えた。
だが、その憤りをぶつけようにも、いくつもの強殺を繰り返して刑務所に服役していたその犯人は獄中で病死している。
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