自分だけでも覚えていなければ、すべては過去へと追いやられてしまうだけだろう。
「そうだ、酒、買ってこなきゃあな」
唐突に純が立ち上がった。
「おう、肝心のもんがねぇんじゃな。美味い酒、買って来いよ」
文也が注文を付けた。
「ほら、あんたも一緒に行こう。この辺り案内しがてら」
純がケンを促した。
「わ……」
ケンはコートを持って立ち上がろうとして、さすがに長く正座をしていたため、ふらついた。
「かしこまって正座なんかしてるからだ」
ワハハと純が笑う。
ケンは純に手を貸してもらって立ち上がると、一緒に外へ出た。
「しっかし、あの二人、兄弟かってくらい似てるよな」
信道の声が純にも聞こえてきた。
「確かに、あんたと俺、よく似てるみてぇだな」
舗道を歩きながら純が言った。
「そうだね。俺は父に似たってことかな。写真でしか見たことがないけど」
「俺も伯父さんのことは写真でしか知らないが、どっちかって言うとばあちゃんに似てる。でもって、親父はじいちゃんに似てるんだが、俺はどうもじいちゃんの母親、つまり俺らの曾ばあちゃんに似てるらしい。ってことは、あんたもおんなじってこと」
ケンは笑った。
「そうか。それがルーツか、なるほど」
まさしくルーツというものを確信できる事実だ。
「けど、おかしなことにさ、あんたの母親、瑠美さんを伯父さんがうちに連れてきた時にさ、じいちゃんが自分の母親に似てるって感激したっていう話があってさ」
「というと、つまり……」
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